風の声が聞こえる
口を塞ぐ手に、冷たい涙が伝った。冷たくて、凍えそうなくらいの涙。スッと、手をひっこめた。


「いづみ、ごめん…。失うのが怖くて…あんな風にしかできなかった…」


私は、黙って首を振った。


「どこにも、行かないで。愛してる」


ぐっ…と引き寄せ、抱きしめられても、生命を刻む音が、聞こえない。このまま身を委ねていたら、私も彼と、同じ世界の住民になってしまう。


彼から、離れた。涙で揺れる目を、真っ直ぐに見つめた。そして、右手に持っていた生命の実を、渡した。


「ありがとう。でも、私…まだ死んでないんだ…」







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