風の声が聞こえる
「これで、良かったのよ…」



実妹のむつみが、私に囁くように言った。綾也のDVの話を知っている、唯一の人間だ。



私は、家で翻訳の仕事をしながら、綾也が機嫌を損ねないように、毎日部屋の掃除は欠かさず、食事も、彼が満足するようなものを用意していた。


それでも機嫌が悪いと暴力をふるわれ、妹が私をかくまってくれる日もあった。



「何度、話をしても改善されなかったし、最後はこんなザマで…」



「やめて。故人に悪口なんて…」



「そうね…」



むつみは、ため息をついて、式場を後にした。それに続くかのように、私は…顔も見ずに立ち去った。



さようなら



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