風の声が聞こえる
揚げたてのコロッケとサラダと味噌汁…。ごく普通の献立がテーブルを賑わせた。



…ごく普通の献立だけれど…今の私には、どれもこれもご馳走だった。そして、いちばんのご馳走は、何の不安もなく美味しく食べられことであった。



「いづみは…ずっとここにいていいから、ね?」


急に、母がポツリと呟いた。



「翻訳の仕事なら、ここでもできるでしょ?」



「…でも…」



私も、ずっとあのマンションに住み続けることはできないと、わかっていた。



「ここは、あなたの家。遠慮なく、戻ってきなさい」



「…お母さん…」



反対を押し切ってこんなことになった私を…笑顔で受け入れてくれるの?


私は『ありがとう』も言えずに、小さく頷いた。


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