聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
リュティアは目を開け、驚きに目を瞠った。

「草…ここは、森の、中…? 溶岩は…?」

気が付くと二人は先ほどと変わらぬ森の中、やわらかな下草の上に倒れていた。

カイが身を起こし、あたりを見回しながら言葉を失くしている。

「もしかして、ここが…死者の国?」

リュティアの呟きに、応えがあった。

「ば~か、そんなわけ、ないでしょ」

小憎らしい声色で告げた声は、番人と名乗る少年のものだった。

森の小道を、彼はすたすたとこちらに歩み寄ってくる。

それでようやく、リュティアも少年が自分たちを助けたことを理解した。

「あなた…これはいったい、どういう…私たちを殺すのでは…」

どことなく拗ねたような表情をして、少年は言った。

「どうもこうもないよ! 君が強情すぎるからいけないんだ。そんなに強情なら、少なくとも、聖具を必死に守ってはくれるんじゃないの? って、思っただけ」

「え?」

「え? じゃないってば。いらないの? 聖具」

「ええ!? 聖具を、くださるのですか?」

「僕を番人だと認めて、ちゃんと話を聞いてくれるならね」

「…はい!! 番人さん!!」

リュティアだって、本当はうすうす勘付いていた。

彼が本物の、聖具の番人であるということ。

そしてカイをさらったのは、聖具を渡すに足る人物か、自分を試すためだったこと。

きっとパール王女をさらったのにも、深いわけがあったのだということ。

番人は少し照れ臭そうに笑い、それが年相応に見えて意外だった。

「 “光の人”をみつけるんだ、乙女(ファーレ)。黄金の髪の美しき人。聖乙女に最後の最強の力を与え、戦いを終わりに導いてくれる人。彼を猛き竜(グラン・ヴァイツ)より先にみつけられなければこの戦い…必ず負ける」

リュティアはごくりと唾をのみこんだ。

今の言葉を胸に刻みつける。

「わかりました。“光の人”を探します。絶対に猛き竜(グラン・ヴァイツ)より先に彼をみつけだしてみせます」

「それから―」

その時ふと、番人が何かに気づいたようにはっと顔を上げた。

「!! 来たか。奴ら、僕の領域をねじまげて、強行突破か…さすが、猛き竜(グラン・ヴァイツ)…」
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