聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
2
駆ける三人の行く手を阻むように、下草を割って現れたのは50匹ほどの狼の魔月の大群だった。ずっとリュティアたちをつけまわしていた奴らだ。
「リューはこの茂みに隠れていろ。絶対に出るな」
「はい、どうか気をつけて」
リュティアを背後の茂みに押し込むと、うねる背中の群れが近づく前に、カイは弓を引き絞り、立て続けに四本の矢を射た。
すると矢はすべて深々と魔月の胸に突き刺さり、一瞬で息の根を止めた。これには射た本人が一番驚いた。すさまじい威力だ。これが番人のこめた聖なる力のなせるわざなのか。
これならいける…!
今までの雪辱を晴らす機会だとカイは再び弓を引き絞ったが、遠くに照準を合わせていたために凄まじい速度で迫る一匹に気がつかなかった。魔月は赤い角を躍らせその鋭い牙をカイに突きたてようとした。
―が。
ぶんと唸りを上げる斧の一撃で魔月は真っ二つに断ち割られた。斧の主はもちろん、アクスだった。
「私は戦いに来たわけではないからな! まったく、なんだってこんなことに。お前たちはひよわで危なっかしすぎる。これでは私まで戦わざるを得ないではないか」
ぶつぶつ文句を言いながらも、繰り出される技は絶大な威力と美しさを誇り、次々と魔月を屠っていく。さすがあの英雄、天下無双の斧使いだ。
カイはすばらしく頼もしい仲間を得た気分になった。
二人は共に戦うのが初めてであることなど嘘のように、息の合った戦いを見せた。
遠くの敵はカイの矢が、近くの敵はアクスの斧が、確実に仕留めていく。
二人の衣服がやがて返り血で血みどろになる頃、ようやく敵はまばらになりはじめた。足元には魔月たちの屍が山と積み上がっている。
「リュー、そろそろ出てきてもいいぞ!」
カイは油断なく前方に目を配ったまま、背後に声をかけた。
しかし、返事はなかった。
「リュー?」
カイが振り返ると――
そこには茂みがあるだけだった。
リュティアの姿は、忽然と消えていた。
「リューがいない!!?」
「リューはこの茂みに隠れていろ。絶対に出るな」
「はい、どうか気をつけて」
リュティアを背後の茂みに押し込むと、うねる背中の群れが近づく前に、カイは弓を引き絞り、立て続けに四本の矢を射た。
すると矢はすべて深々と魔月の胸に突き刺さり、一瞬で息の根を止めた。これには射た本人が一番驚いた。すさまじい威力だ。これが番人のこめた聖なる力のなせるわざなのか。
これならいける…!
今までの雪辱を晴らす機会だとカイは再び弓を引き絞ったが、遠くに照準を合わせていたために凄まじい速度で迫る一匹に気がつかなかった。魔月は赤い角を躍らせその鋭い牙をカイに突きたてようとした。
―が。
ぶんと唸りを上げる斧の一撃で魔月は真っ二つに断ち割られた。斧の主はもちろん、アクスだった。
「私は戦いに来たわけではないからな! まったく、なんだってこんなことに。お前たちはひよわで危なっかしすぎる。これでは私まで戦わざるを得ないではないか」
ぶつぶつ文句を言いながらも、繰り出される技は絶大な威力と美しさを誇り、次々と魔月を屠っていく。さすがあの英雄、天下無双の斧使いだ。
カイはすばらしく頼もしい仲間を得た気分になった。
二人は共に戦うのが初めてであることなど嘘のように、息の合った戦いを見せた。
遠くの敵はカイの矢が、近くの敵はアクスの斧が、確実に仕留めていく。
二人の衣服がやがて返り血で血みどろになる頃、ようやく敵はまばらになりはじめた。足元には魔月たちの屍が山と積み上がっている。
「リュー、そろそろ出てきてもいいぞ!」
カイは油断なく前方に目を配ったまま、背後に声をかけた。
しかし、返事はなかった。
「リュー?」
カイが振り返ると――
そこには茂みがあるだけだった。
リュティアの姿は、忽然と消えていた。
「リューがいない!!?」