聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
雷竜はけたたましい咆哮をあげると、その足で少年を踏みつぶそうとした。

「俺に刃向かうか―――面白い!」

少年はたんと身軽に跳躍してかわした。

一瞬遅れて少年がいた場所にどすんと亀裂を入れたあと、間髪入れずに雷竜が再び吼える。

するとその咆哮に合わせて雷竜の体がはぜる稲妻を帯び、それが瞬時に四方八方に伸びてあたり一帯に幾筋もの激しい稲妻を落とした。

ぎりぎりのところで、リュティアは稲妻の直撃を逃れたが、反動で後方に吹っ飛んだ。

稲光が去るとあたりは火の海と化していた。

リュティアは熱気にむせながら、視線で必死に少年を探した。すぐにその瞳は見開かれた。

なんと、少年は無傷だった。腕でかばうこともせず、剣を構えてその場に立っていた。稲妻は少年のマントひとつ、髪一筋すらも焦がすことができなかったようだった。

いったい、なぜ?

「雷で俺に勝てると思うか」

少年の声は静かだったが、その語尾に戦いを楽しむような響きが感じられた。

雷竜は再び体から稲妻を放出したが、次の瞬間信じられないことが起こった。

雷竜から放たれた稲妻が、少年のつぶやきと腕の一振りで力の向きを変え、太い稲妻の槍となって雷竜自身に落ちたのだ。

リュティアには少年が雷を自在に操っているように見えた。そういえば初めて会った時も少年の声と動きだけで雷が落ちた。でもなぜ?

疑問は次々に轟くばかりで収拾がつかない。

そしてリュティアは全身が瞳にでもなったような心地で、ただ少年をみつめることしかできない。

「今度はこちらから行くぞ!」

少年の体がしなやかに動き、目にもとまらぬ早業で雷竜の胸を十字に斬り下げた。

鮮血が迸り、少年の頬を濡らす。
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