聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~

光が見える。

淡い、優しい光。その中に、光よりももっと優しく自分をみつめてくれる瞳が見える。なつかしさが胸にこみあげる。これは誰の瞳だったろう。

『大丈夫…きっとまた、会えるわ。絶対に、会えるから、だから』

澄んだ声がふわりと耳を撫でていく。

その声の切ない響きに胸を打たれた。光の中の瞳からしずくがこぼれおちた。

泣いている…?

―泣くな…。

その涙をぬぐおうと腕を持ち上げようとして、ライトは目覚めた。

夢の中よりももっと優しい瞳が横たわるライトを見下ろしていた。

「よかった…気が付きましたね」

「……お前は……聖乙女(リル・ファーレ)……」

なぜここに。言おうとして、今の自分の状況に気がつく。あたりを濃厚な緑の気配が包み込んでいた。ここはあの森だ。自分は聖乙女を殺そうとして、雷竜が――

そうだ、怪我を、と視線を下にやると、聖乙女が詠いながら自分の腹に両手を重ねていた。その手からは星の光のように淡い、優しい光が放たれており、腹の傷がみるみるうちにふさがっていっているところだった。

ライトは瞬間的に怒りにも似た感情に襲われ聖乙女の手を振り払った。

「やめろ…俺は猛き竜(グラン・ヴァイツ)だと、言ったはずだ…なぜ助ける」

ライトは無意識に右手で剣を探した。

剣はライトのすぐそばにあった。

ライトは剣を構えるため身を起こそうとしたが、腹の痛みに呻いて大地に崩れ落ちた。「まだ動いてはだめです。あともう少しだけ、静かにしていてください」諭すような鈴の音のごとく澄んだ声が降ってきて、再び腹の上にあたたかい両手が置かれた。ライトには理解不能だった。

助ければ自分を殺すであろう相手を、なぜ助ける?
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