聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
指の痛みでリュティアの浅い眠りは破られた。
朦朧とする意識の中で、それが聖具をはめた左中指だとわかった。まさか聖具が、とリュティアは跳ね起きた。
だが目覚めてみると、腹の痛みの方がずきずきと疼いた。
見れば聖具をはめた中指に一筋の赤い傷が走っていた。傷はためらったように浅く、聖具も無事だ。
ほっとしたのも束の間、リュティアは少年の姿がないことに気が付き慌てて周囲を見回した。
すると遠くに、ゆっくりと歩み去っていく黒いマントの背中が見えた。リュティアの体が勝手に動いた。傷の痛みもものともせず、少年を追って駆け出していた。
リュティアの耳から風の音も虫の声も遠ざかった。ただ緑だけが鮮やかに映えて、近づく少年の背中を彩る。
「騎士様!」
なぜだろう。光など射しこんでいないのに、彼は霞んだように輝いて見える。彼に、手が届く。あと少し…
「待って下さい、星麗の騎士様!」
息を切らしながら伸ばした手は空をつかむ。が、思いが届いたのだろうか、不意に少年が立ち止まった。
「―ライトファルス」
「え………?」
少年が半身を返し、その濡れたように輝く黒いまなざしをリュティアに向けた。
「星麗の騎士ではない。ライトファルスーライトだ」
それが少年の名だとわかるまで、時間がかかった。
「……ライト、様……?」
呆然と呟くと、急にぼふっと頭を乱暴におさえつけられた。
その時はじめて気がついた。少年は背が高い。リュティアはぬくもりにとまどうように少年を―ライトを見上げる。
朦朧とする意識の中で、それが聖具をはめた左中指だとわかった。まさか聖具が、とリュティアは跳ね起きた。
だが目覚めてみると、腹の痛みの方がずきずきと疼いた。
見れば聖具をはめた中指に一筋の赤い傷が走っていた。傷はためらったように浅く、聖具も無事だ。
ほっとしたのも束の間、リュティアは少年の姿がないことに気が付き慌てて周囲を見回した。
すると遠くに、ゆっくりと歩み去っていく黒いマントの背中が見えた。リュティアの体が勝手に動いた。傷の痛みもものともせず、少年を追って駆け出していた。
リュティアの耳から風の音も虫の声も遠ざかった。ただ緑だけが鮮やかに映えて、近づく少年の背中を彩る。
「騎士様!」
なぜだろう。光など射しこんでいないのに、彼は霞んだように輝いて見える。彼に、手が届く。あと少し…
「待って下さい、星麗の騎士様!」
息を切らしながら伸ばした手は空をつかむ。が、思いが届いたのだろうか、不意に少年が立ち止まった。
「―ライトファルス」
「え………?」
少年が半身を返し、その濡れたように輝く黒いまなざしをリュティアに向けた。
「星麗の騎士ではない。ライトファルスーライトだ」
それが少年の名だとわかるまで、時間がかかった。
「……ライト、様……?」
呆然と呟くと、急にぼふっと頭を乱暴におさえつけられた。
その時はじめて気がついた。少年は背が高い。リュティアはぬくもりにとまどうように少年を―ライトを見上げる。