聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
翌日。

アクスが聖試合の三試合目に堂々と勝利した時、去ろうとする彼に、リュティアは告げた。

「聖試合に出ていただく見返りは…フローテュリア王宮の、“料理長”に就任していただく、ということでしたよね」

「そうだ。護衛はごめんだが、料理長なら一度やってみたいと思っていたからな。約束を忘れるんじゃないぞ」

「もちろんです。けれど、改めてアクスさんにお願いしたいことが…」

「護衛はやらんぞ」

「ええ。護衛ではないのです。
私たちの旅の、“専属料理長”になってはくださいませんか?」

「…は?」

「私たちは、まずいものばかり食べているから、アクスさんの言う通り、ひ弱なのです。心配ではありませんか? アクスさんがしっかり栄養管理しないと、危なっかしいのでは?」

何を言い出すのかと、アクスは完全に面食らった様子だった。

しかし数瞬ののち、こらえきれないというように笑い出した。

それは朗らかな笑み。

人々にたたえられた英雄時代の明るさを彷彿とさせる笑みだった。

「リュティア王女。お前は本当に変な娘だな。
仕方ない…私がお前たちの旅についていって、栄養というものを教えてやる。覚悟しておけ」

「…ありがとうございます!!」
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