聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「私も一緒に行く!」

甲高い声をあげたのはフレイアだった。

「…って言ったら、困らせてしまうだろうから、私、黙って見送るわね。リュティアのために、私、しばらく国に残って父さまに絶対フローテュリア再興協力の約束を守らせるわ」

「フレイア…」

フレイアが涙目になっているのがわかって、リュティアもついうるっと来てしまう。

「でも、さよならはぜぇったい、言わないわよ。きっとまた会える、そうよね? リュティア」

「はい。また、会いましょう」

「次会う時は聖具を三つ集めてフローテュリアを再興させる時だな」

ザイドの励ますような口調に、カイが「はい」としっかり頷く。

(その時までにはお姫様との仲、絶対進展させろよ)

(もちろん!)

男二人が小声でかわした会話は、もちろんリュティアの耳には入っていない。

「アクス殿も気をつけて」

「ジョルデ殿も」

戦士二人の言葉の端には本気で戦った者同士が持つよきライバル意識がうかがえる。

それでも彼らは今、別れる。

共に過ごした時間、あの夜のことを、忘れる者はいないだろう。

けれど、リュティアは別れる前にどうしても、フレイアに言わなければならないことがあった。

何度も言おう言おうと思ったけれど、どうしても気が咎めて口にできなかった事実。

…パールヴァティー王女のことだ。

リュティアの夜明け色の瞳に静かな決意の光が浮かんだ。リュティアは意を決して口を開いた。

「フレイア。聞いて下さい。あなたの妹、パールヴァティー王女は…彼女は、もう…」

その時、フレイアをみつめていたリュティアの瞳に夜明けの一番はじめの光がまばゆく差し込んできて、リュティアは目を細めた。噴水がきらきらと夜明けの光を受けて喜ぶように輝いている。その水しぶきを透かしたフレイアたちの向こうに小さな人影が見えた。

リュティアは思わずぎょっとなった。

「番人さんっ!?」

悠然とした足取りで一行のもとへ歩いてくるのは、紛れもなくあの番人の少年だった。

以前見た時とは雰囲気が違う。

朝日の方角から現れた少年は、金髪を太陽そのもののように輝かせ、荘厳ですらある気配を漂わせている。
< 117 / 121 >

この作品をシェア

pagetop