聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
リュティアもカイもしばらく言葉もなかった。

沈黙は二人の失望で黒く塗りこめられ、重くまとわりつくようだった。

カイはリュティアの手を取りのろのろと近くの樅(もみ)の木の下まで連れていくと、「きっと疲れていたんだ。もう少し、説得してみよう」と元気づけるように言ったが、二人には剣以上に差し出せるものなど何もなかった。

父は確かにあの時、アクスを頼れと言った。しかし、今のあまりに一方的なアクスの様子を見れば、彼があの名高い英雄だとはとても信じられなかった。それとも自分たちが怪しい者にしか見えなかったのか?しかし身分を証明するものなど何もないのだ。どうすればいいというのか。

いずれにせよ、二人の希望は打ち砕かれつつあった。

二人が途方に暮れていると、小屋の扉が開き、中から褐色の肌の娘が現れた。腕に何かを抱え、あたりをはばかるように視線をあちこちに投げながらこちらに向かってくる。

「私はマリア。さっきは父が失礼をしてごめんなさい―どうぞ」

差し出されたのはわずかなパンとチーズの入ったバスケットだった。二人に笑いかけるマリアの赤茶色の瞳はやわらかい。父によく似た肩口までの赤毛を左右で三つ編みにして垂らしている。素朴だが清らかで心洗われるような少女だった。

「…ありがとうございます。でも、お父様に叱られるのではありませんか?」

リュティアが心配そうに小屋に視線を投げると、マリアはまた笑った。

「大丈夫。鳥のパニラフにあげるって言って出てきたから」

「―パニラフには、あげなくていいのですか?」

「パニラフは…いいのよ」

マリアの瞳が突然暗い陰りを帯びた。

「食べてくれないの。…病気だと思う。餌をあげようとしてもつつかれて…パニラフはもう…」

リュティアはそれを聞いて黙っていられる人間ではなかった。リュティアは近くの鳥小屋に巣をかけているというパニラフを診ることになった。薬草医としての勉強を八年も続けてきた彼女にとって、それは難しいことではなかった。

パニラフは小さな黄色の鳥で、見たところかなり衰弱している様子だった。マリアがパンやチーズのかけらを差し出しても、激しく彼女の手をつつこうとするばかりで一切受け付けなかった。リュティアはしばらくパニラフのくちばしの中や腹の具合を見て、こう漏らした。

「治るかもしれません―白眠草を与えれば」

「白眠草?」

聞いたことのない薬草の名だったのだろう、カイが問い返す。

「私、取りに行ってきます」

「なんだって?」

「白眠草は山のもっと高いところ、沢の源流の近くに自生しているのです。急がなければ」

言うが早いか、リュティアは踵を返して山を登り始めた。

たった今護衛を断られ希望を断たれたことなど、衰弱した命の前では些細なことだった。病を治したくて、ずっと努力してきたのだ。

今、外界に出て、初めて弱っている命を前にしたのなら、やるべきことをやりたい。

その想いが伝わったのか、カイもリュティアを追ってきてくれた。

「これから先のことは、まずパニラフを助けてから。そういうことだな?」

「ええ! ありがとう、カイ」

二人は山道を上へ上へと登り始めた。
< 13 / 121 >

この作品をシェア

pagetop