聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
沢の近くで仰向けに倒れるマリアの無残な有様を見た時、アクスの口から知らず悲鳴が迸った。
マリアの全身はおびただしい血で真っ赤に染まっていた。彼女ははらわたを食われ、無残にも左腕を食いちぎられていた。
「お許しください…お許しください―! 僕はマリアと、沢でこっそり会う約束をしていたのです…! 僕がここに着いた時には巨大な熊がマリアに馬乗りになって腕を―僕は大声を上げて石を投げてなんとか熊を追い払い腕を取り返しましたがマリアが―マリアが―!!」
フレックスの声は涙でほとんど言葉になっていなかった。彼は拳を何度も何度も大地に打ちつけながら、額を地にこすりつけて泣き叫んだ。
マリアにはまだ息があった。だが間もなくこときれるのは誰の目にも明らかだった。アクスはなすすべもなく地に両膝をついて慟哭した。
「マリア―!! マリア―!!」
マリアはアクスに残されたたったひとつの宝物だった。心優しいマリアがいたから、自分はあの日死を選ばずにいられた。マリアのためにと思うことで、山奥の孤独な暮らしもなんとかやってこられたのだ。
赤ん坊だった頃のマリア、駄々をこねた幼女のマリア、チーズ作りを一生懸命に覚えるマリアの姿が次々と浮かんでは消えた。
いつの間にか降り出した雨が涙のようにアクスの頬を濡らした。
「―フレックスさん、腕をここに」
その時、凛とした声を響かせたのは、カイと名乗った護衛官だった。
フレックスはわけもわからず、ちぎれたマリアの腕を指示通り、ぴったりと元通りに合わせるようにする。アクスは思った。とんだおおばかものめ、そんなことで何が変わる!
「リュー、今から私の言うことを、しっかり聞いて、言われた通りにするんだ。そうしなければ、彼女は助からない、いいな?」
「カイ? わ、わかりましたけど…どうすれば?」
「ここに、両手をかざして。それから、この石板の文字を読め。お前なら、読めるはずだ」
「石板って…フローテュリアから持ち出した、あの…?」
「説明はあとだ。急いで」
「は、はい!」
マリアの全身はおびただしい血で真っ赤に染まっていた。彼女ははらわたを食われ、無残にも左腕を食いちぎられていた。
「お許しください…お許しください―! 僕はマリアと、沢でこっそり会う約束をしていたのです…! 僕がここに着いた時には巨大な熊がマリアに馬乗りになって腕を―僕は大声を上げて石を投げてなんとか熊を追い払い腕を取り返しましたがマリアが―マリアが―!!」
フレックスの声は涙でほとんど言葉になっていなかった。彼は拳を何度も何度も大地に打ちつけながら、額を地にこすりつけて泣き叫んだ。
マリアにはまだ息があった。だが間もなくこときれるのは誰の目にも明らかだった。アクスはなすすべもなく地に両膝をついて慟哭した。
「マリア―!! マリア―!!」
マリアはアクスに残されたたったひとつの宝物だった。心優しいマリアがいたから、自分はあの日死を選ばずにいられた。マリアのためにと思うことで、山奥の孤独な暮らしもなんとかやってこられたのだ。
赤ん坊だった頃のマリア、駄々をこねた幼女のマリア、チーズ作りを一生懸命に覚えるマリアの姿が次々と浮かんでは消えた。
いつの間にか降り出した雨が涙のようにアクスの頬を濡らした。
「―フレックスさん、腕をここに」
その時、凛とした声を響かせたのは、カイと名乗った護衛官だった。
フレックスはわけもわからず、ちぎれたマリアの腕を指示通り、ぴったりと元通りに合わせるようにする。アクスは思った。とんだおおばかものめ、そんなことで何が変わる!
「リュー、今から私の言うことを、しっかり聞いて、言われた通りにするんだ。そうしなければ、彼女は助からない、いいな?」
「カイ? わ、わかりましたけど…どうすれば?」
「ここに、両手をかざして。それから、この石板の文字を読め。お前なら、読めるはずだ」
「石板って…フローテュリアから持ち出した、あの…?」
「説明はあとだ。急いで」
「は、はい!」