聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
第一章 血染めの花

光神と闇神により見守られし世界唯一の大陸、エルラシディア大陸。

星麗と魔月の大戦より2999年の年月が経った今、そこにあるのは6つの国であった。

世界の中心にフローテュリア、それを取り巻くように、アタナディール、ヴァルラム、プリラヴィツェ、ウルザザード、トゥルファン。それぞれがそれぞれの気候風土により、独自の文化をつくりあげている。

中でもフローテュリア王国はその気候、風土、歴史から、「楽園の国」と呼ばれていた。

年中「楽園の風」と呼ばれる温暖な風が吹き、内陸部とは思えぬ寒暖の差のない穏やかな気候がもたらされる。

それは国中の至る所を季節問わず美しい花々でいっぱいにする気候であった。

それゆえにこの国は「永久なる花園」とも称される。

むろん、穏やかな気候がもたらすのは花々だけではない。

とうとうと流れる川に、肥沃な大地。果樹は熟れ、畑はうるおい、森は良質な木材を、山々は頑強な石材や貴重な宝石を、人々に惜しげもなく分け与える。

さらに、「楽園」の名を知らしめるのはこの国の歴史である。

戦争を、一度たりとも経験していないのだ。

エルラシディア大陸の中央に位置するためすべての国と国境を接しながら戦争を経験しなかったのは、北のプリラヴィツェ、北東のウルザザード、東のトゥルファンとの間に高く険しいコルディレラ山脈という天然の鉄壁が立ちふさがっているおかげである。

それでも西のアタナディール、北西のヴァルラムとの間に壁はない。

550年前、その弱みをついてトゥルファンが侵攻してきたことがあったが、突如として国を守るように聖なる
光の壁が現れ、侵入できなかったという。

神に愛されすべてに満ち足りたこの国では、王位争いも内乱もなく、聖王の統治下人々は千年の昔から平和に暮らしていた。

長い平和は独自の絢爛たる文化を生んだ。その最たるものが白大理石でできた壮麗極まる王宮である。

突き出た尖塔も丸屋根も、雪でできているように純白の、美しい王宮。その広大な敷地の奥の奥に、花園宮と呼ばれる宮殿がひっそりと建っている。

何重もの扉と鍵穴と衛兵により外界と遮断されたここ花園宮から、物語は始まる――。
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