聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
2
翌日の夜明けごろ、リュティアとカイは静かに旅立とうとしていた。
二人の頭上ではみるみるうちに星々が光を失い、新しい一日の始まりを告げる大きな光が生まれ出でようとしていた。闇色の空が菫色に変わっていくにつれ、黒々とした不気味なシルエットを投げかけていた木々たちも、本来の緑色を帯びていく。
その木々の間に踏み込む前に、一度だけ、リュティアは振り返ってアクスの小屋を眺めた。それはどっしりとしているが、この薄闇の大自然の中どこか寂しげに見えた。
マリアとフレックスが、二人を見送ってくれた。
山ほどのパンとチーズ、それにいくらかの銀貨の入った袋を手渡され、その気持ちをどれほどありがたく思ったことか。
「こうなれば仕方がない。二人だけでも、ヴァルラムへ行こう。フローテュリアを再興するんだ」
「…はい」
リュティアはカイの言葉に頷いたが、正直言って何の実感も湧いていなかった。
それ以前に魔月と戦っていく自信など、これっぽっちもないのは、カイも同じだったはずだ。
けれど、どんなに心細くても、行かなければならないのだ。
それが二人に課せられた運命だった。
その運命を背負う背中を、いつまでもみつめる目があった。
小屋の影から、決して二人に悟られぬようにこっそりと。
しかし確かな強い感情を宿してみつめる目。
その目の持ち主は、二人の背中のあまりの儚さに、もう二度と、二人に会うことはかなわぬだろうと思った。
彼のその予想は、当たっていたといえるかもしれない。
なぜなら、邪悪な存在が、まさに今、二人の存在を嗅ぎ付けてしまったからだ。
雨が上がり、かなりの時間が経っていた。
二人を守ってくれるものは、何もなかった。
二人はもっと早く、雨があがらぬうちに、ここを出るべきだったのだ。
二人の頭上ではみるみるうちに星々が光を失い、新しい一日の始まりを告げる大きな光が生まれ出でようとしていた。闇色の空が菫色に変わっていくにつれ、黒々とした不気味なシルエットを投げかけていた木々たちも、本来の緑色を帯びていく。
その木々の間に踏み込む前に、一度だけ、リュティアは振り返ってアクスの小屋を眺めた。それはどっしりとしているが、この薄闇の大自然の中どこか寂しげに見えた。
マリアとフレックスが、二人を見送ってくれた。
山ほどのパンとチーズ、それにいくらかの銀貨の入った袋を手渡され、その気持ちをどれほどありがたく思ったことか。
「こうなれば仕方がない。二人だけでも、ヴァルラムへ行こう。フローテュリアを再興するんだ」
「…はい」
リュティアはカイの言葉に頷いたが、正直言って何の実感も湧いていなかった。
それ以前に魔月と戦っていく自信など、これっぽっちもないのは、カイも同じだったはずだ。
けれど、どんなに心細くても、行かなければならないのだ。
それが二人に課せられた運命だった。
その運命を背負う背中を、いつまでもみつめる目があった。
小屋の影から、決して二人に悟られぬようにこっそりと。
しかし確かな強い感情を宿してみつめる目。
その目の持ち主は、二人の背中のあまりの儚さに、もう二度と、二人に会うことはかなわぬだろうと思った。
彼のその予想は、当たっていたといえるかもしれない。
なぜなら、邪悪な存在が、まさに今、二人の存在を嗅ぎ付けてしまったからだ。
雨が上がり、かなりの時間が経っていた。
二人を守ってくれるものは、何もなかった。
二人はもっと早く、雨があがらぬうちに、ここを出るべきだったのだ。