聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
白々と夜が明ける気配でライトは目覚めた。そのことで自分がいつの間にか寝入っていたことに気がついた。焚火の燃えかすが荒涼とした大地にわびしく残っていた。

ライトは身を起こすと再び黙々と歩を進め、太陽が真上に来るころついにその場所を発見した。

そこは一見するとただの天に向かって突き出た巨岩のようだった。だがライトはその下に確かに力の脈動を感じた。ライトは迷わず片手を振り上げ、叙情詩を口ずさんた。すると―

宙に鮮やかな光がおどり、稲妻が巨岩を直撃した。ばらばらと岩の一部が崩れ落ち、そこに緻密な彫刻の施された何か遺跡の入口のようなものが現れた。その奥には闇がぽっかりと口を開け、そこに道が続いていることを教えていた。

「間違いない。ここだ」

静かな興奮が彼の体を駆け巡った。

ライトが右掌を弄ぶようにひねると、そこにばちばちと小さな稲妻の光の球が現れた。それをたいまつがわりに、ライトは闇の中へと踏み込んでいった。

稲妻を呼ぶ力。

この力は、ライトが数か月前、石版の導きによって最初に手にした力だった。

エルラシディア東の大国トゥルファンの北東、大氷河の奥地の遺跡で封印を解き、自在に雷を操れるようになった。

彼は確かに力を手にしたのだが、決して満足することができなかった。

何かに駆り立てられるように、彼は石版が示すすべての力を手に入れるつもりでいた。

石版は不思議なことに、最初トゥルファンの雷の封印の場所だけが読み取れたのだが、雷の力を手にした後にはここ、炎の封印の場所も読み取れるようになっていた。ここで炎の力を手にすれば、残りの風の封印、地の封印の場所も読み取れるようになるのだろう。

そこは岩をくりぬいてつくられた遺跡のようだった。

壁や天井にびっしりと古い時代の文字が刻まれた狭い通路を抜けて階段を降りると広間が姿を現した。

広間はライトの背丈のゆうに四倍は高さがあり、その至る所の彫刻や壁画は見事で、空間全体を厳かなものにしていた。遺跡はこの広間で行き止まりのようだった。

そんなはずはなかった。力の脈動はこの地下から感じるのだ。

ライトは腕組みをして広間のあちこちを仔細に見てまわった。そして四角形の床岩のひとつが微妙にほかの床岩と違っていることに気がついた。両端に小さな穴が開いているのである。

ライトは腰に負っていた革袋の荷物の中から細いロープを取り出した。そして床岩の前に膝をつくと、器用な手つきでその一方の穴にロープを通し、もう一方の穴からロープを出した。手早くもとのロープと取り出したロープを固く結び合わせ、ライトはぐっと力を込めてそれを引いた。

すると―

ガタリと音を立てて床岩が外れ、そこに秘密の階段が現れた。

そこからは重く凝った空気が流れてきた。長い、本当に長い間閉ざされてきた場所なのだろう。深淵の闇が今にもつかみかかってくるようだ。しかしライトは行軍する戦士のように堂々とした態度で階段に歩を進めた。
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