聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「!!」
数歩も行かないうちに、頭上から突然ひゅっと空気を鳴らして何かが落ちてきて、ライトは瞬間的にそれを剣で切り払った。まっぷたつになったそれは矢だった。
―侵入者を阻む仕掛けか。
ライトは稲妻の光球を大きくすると、慎重に階段を下りて行った。
階段は長くらせん状に続いており、ライトはすぐに方向感覚を失った。
仕掛けの数はどんどん増え、飛んでくる矢の数もそれに比例して多くなっていった。やっと階段が終わると三つの通路がライトを待っていた。ここまで封印に近づけば、力の脈動で進むべき道がわかった。ライトは迷わず右の道を選んだ。
狭く長い通路も岩をくりぬいてつくられたものらしく、ごつごつとした岩肌が左右から迫ってくるように感じられた。
と、突然足場がなくなりライトの体は宙に浮いた。
頭上ばかり警戒していて油断したのだ。
落ちる―!
間一髪、転落する前に片腕だけでなんとか体を支えたライトは、光に照らされた足下の光景に息をのんだ。
そこは無数の槍の海―長い年月獲物を待ち続けたその鋭い切っ先の群れは、血を求めるようにまっすぐ上に―ライトに向いている。転落すれば命はなかった。
片腕だけで体を岩床の上に引き上げたライトは、冷静に光ですべてを照らし、穴の距離をはかった。大した距離ではなかった。
次いで岩壁を探る。あちこちにヒビが入っている。
彼は再びロープを取り出し、自分の剣の柄にしっかりと結びつけた。そしてそれを渾身の力でできる限り遠くの岩壁のヒビに叩きつけるようにして差し込んだ。
剣は柄まで埋まった。ライトは柄に結んだロープにつかまると、勢いをつけて体を宙に躍らせた。剣にぐっと体重がかかり、そこを支点として彼の体はぐるんと宙をすべった。
見事、穴の反対側に足をつけたライトは、ロープを引っ張り、くるくると回転した剣をしっかりとその手におさめた。
「近い…」
ライトの呟きを―久々に響いた人声を闇がのみこんだ。闇はどんどん深くなる。そして力の気配も…。
通路の闇の向こうに扉が現れた。びっしりと古代文字が刻まれた重々しい鉄の扉だ。ここだ、と力の予感にわななきながらライトは扉を開いた。
そこは岩壁に囲まれた小さな部屋のようだったが、中央に闇色に輝く石でつくられた祭壇があった。それは中央にいくほど小さくなる四段の祭壇で、トゥルファンの大氷河の遺跡で見た力の封印の祭壇にそっくりだった。
ライトにはやるべきことがわかっていた。彼は剣で自分の指を傷つけると、祭壇の中央にその血を滴らせた。
「眠れし炎の力…今ここに目覚めよ!」
波のように力が押し寄せてくる。
この波が全身を満たした時、彼は新たな力を得るのだ。
しかし、それを邪魔するように、背後から何者かの気配が迫ってきた。
ライトが振り返ると、…
「キキィィッ!!」
「キ―――!!」
耳障りな声をあげて、十数匹もの猿が乱入してきた。
ただの猿ではない。
その頭に、赤い角。―魔月だ!
ライトは応戦しようと剣を抜いた。しかし封印を解く儀式の途中であったため、反応が遅れる。
魔月たちの狙いはライトではなかった。ライトだったならば、この一瞬で彼は大けがを負っていたはずだ。彼らはライトではなく、どういうわけか彼の額飾りめがけて襲って来たのだ。
魔月たちはライトの額飾りに爪を立て、牙をくいこませ、それを破壊しようとしている。
ライトは驚き焦った。
「やめろ!! これは、大切な……!!」
剣を振り回して抵抗するが、視界が魔月たちの体で閉ざされていて、思うようにいかない。
「やめろぉぉぉ―――!!」
数歩も行かないうちに、頭上から突然ひゅっと空気を鳴らして何かが落ちてきて、ライトは瞬間的にそれを剣で切り払った。まっぷたつになったそれは矢だった。
―侵入者を阻む仕掛けか。
ライトは稲妻の光球を大きくすると、慎重に階段を下りて行った。
階段は長くらせん状に続いており、ライトはすぐに方向感覚を失った。
仕掛けの数はどんどん増え、飛んでくる矢の数もそれに比例して多くなっていった。やっと階段が終わると三つの通路がライトを待っていた。ここまで封印に近づけば、力の脈動で進むべき道がわかった。ライトは迷わず右の道を選んだ。
狭く長い通路も岩をくりぬいてつくられたものらしく、ごつごつとした岩肌が左右から迫ってくるように感じられた。
と、突然足場がなくなりライトの体は宙に浮いた。
頭上ばかり警戒していて油断したのだ。
落ちる―!
間一髪、転落する前に片腕だけでなんとか体を支えたライトは、光に照らされた足下の光景に息をのんだ。
そこは無数の槍の海―長い年月獲物を待ち続けたその鋭い切っ先の群れは、血を求めるようにまっすぐ上に―ライトに向いている。転落すれば命はなかった。
片腕だけで体を岩床の上に引き上げたライトは、冷静に光ですべてを照らし、穴の距離をはかった。大した距離ではなかった。
次いで岩壁を探る。あちこちにヒビが入っている。
彼は再びロープを取り出し、自分の剣の柄にしっかりと結びつけた。そしてそれを渾身の力でできる限り遠くの岩壁のヒビに叩きつけるようにして差し込んだ。
剣は柄まで埋まった。ライトは柄に結んだロープにつかまると、勢いをつけて体を宙に躍らせた。剣にぐっと体重がかかり、そこを支点として彼の体はぐるんと宙をすべった。
見事、穴の反対側に足をつけたライトは、ロープを引っ張り、くるくると回転した剣をしっかりとその手におさめた。
「近い…」
ライトの呟きを―久々に響いた人声を闇がのみこんだ。闇はどんどん深くなる。そして力の気配も…。
通路の闇の向こうに扉が現れた。びっしりと古代文字が刻まれた重々しい鉄の扉だ。ここだ、と力の予感にわななきながらライトは扉を開いた。
そこは岩壁に囲まれた小さな部屋のようだったが、中央に闇色に輝く石でつくられた祭壇があった。それは中央にいくほど小さくなる四段の祭壇で、トゥルファンの大氷河の遺跡で見た力の封印の祭壇にそっくりだった。
ライトにはやるべきことがわかっていた。彼は剣で自分の指を傷つけると、祭壇の中央にその血を滴らせた。
「眠れし炎の力…今ここに目覚めよ!」
波のように力が押し寄せてくる。
この波が全身を満たした時、彼は新たな力を得るのだ。
しかし、それを邪魔するように、背後から何者かの気配が迫ってきた。
ライトが振り返ると、…
「キキィィッ!!」
「キ―――!!」
耳障りな声をあげて、十数匹もの猿が乱入してきた。
ただの猿ではない。
その頭に、赤い角。―魔月だ!
ライトは応戦しようと剣を抜いた。しかし封印を解く儀式の途中であったため、反応が遅れる。
魔月たちの狙いはライトではなかった。ライトだったならば、この一瞬で彼は大けがを負っていたはずだ。彼らはライトではなく、どういうわけか彼の額飾りめがけて襲って来たのだ。
魔月たちはライトの額飾りに爪を立て、牙をくいこませ、それを破壊しようとしている。
ライトは驚き焦った。
「やめろ!! これは、大切な……!!」
剣を振り回して抵抗するが、視界が魔月たちの体で閉ざされていて、思うようにいかない。
「やめろぉぉぉ―――!!」