聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「目の色変えて群がっちゃってまあ、もうちょっと遠慮ってものをしたらどうなの。かわいそうに、リュティアが怯えているでしょう」
「げっ、シア!」
「怖い怖い。わかったよ、今夜は諦めるよ。ちぇっ」
目を怒らせたシアの登場に、若者たちがそそくさと逃げ出していく。
リュティアはほっとして、シアに微笑みを向けた。
「シアさん、ありがとうございます」
「シアでいいわよリュティア。それにしても一人にしておいたら危険ね。決めた! 今日から私もこの馬車で寝るわ」
「ええ?」
「私はあなたを守る、騎士(ナイト)よ。かっこいいでしょ?」
茶目っ気たっぷりにウインクをよこされ、リュティアはまたも目をぱちくりさせることとなった。
シアが一度馬車を出て、毛布やら枕やらを運び込んできたので、彼女が本気なのだとリュティアは悟った。
誰かと一緒に寝るなど、経験したことがないので少し不安だった。
しかし、シアが旅の面白おかしい話などをたくさん話してくれたので、その不安もいつの間にか消えていた。
だからこんな相談までできたのかもしれない。
「シア。大勢の人と話すのは、怖くありませんか? 私はどうも慣れなくて…」
「人が怖いの?」
「…はい、少し」
「そうねえ」
シアは毛布の上に横になって頬杖をつきながら、笑って答えた。
「大勢の人と話すときは、全員自分の好きな食べ物だと思えばいいのよ。いちごでしょ、みかんでしょ、ケーキでしょ、かぼちゃはジョルデかな、ほんれんそう…は嫌いだった」
「好きな食べ物…ええっと…カイは、大根…かなぁ」
「ぷっ、大根!?」
「大好きなのです。花の形にきれいに整えられて、かじると甘くて…」
「ああ、フローテュリア出身なんですってね。だから大根もきれいなんだ。それにしたって大根…ぷぷ。ああ、話がそれちゃった。ええとね、人と話すときのコツは、ほかにもあるわよ」
「コツ…ですか?」
「そう。こうして胸を張って、まっすぐに相手の目を見て、笑うこと!」
「笑う…」
シアが身を起こし、実演してくれる。
彼女の笑顔は本当に魅力的で、リュティアは到底自分にできる気がしない。
「ほら、笑ってみて」
「こ、こう…ですか?」
「うう~ん、まだまだぎこちないなぁ。そうだ、よく見ててよ」
言うなり、シアが突然眉を上下に動かし、目玉をまわし、鼻をつまんで舌を突き出してみせた。その顔があまりに面白かったので、リュティアは思わず笑ってしまった。
「そうそう! その笑顔よ!」
こんなに楽しい夜は、いつ以来だろうと、リュティアは思った。
「げっ、シア!」
「怖い怖い。わかったよ、今夜は諦めるよ。ちぇっ」
目を怒らせたシアの登場に、若者たちがそそくさと逃げ出していく。
リュティアはほっとして、シアに微笑みを向けた。
「シアさん、ありがとうございます」
「シアでいいわよリュティア。それにしても一人にしておいたら危険ね。決めた! 今日から私もこの馬車で寝るわ」
「ええ?」
「私はあなたを守る、騎士(ナイト)よ。かっこいいでしょ?」
茶目っ気たっぷりにウインクをよこされ、リュティアはまたも目をぱちくりさせることとなった。
シアが一度馬車を出て、毛布やら枕やらを運び込んできたので、彼女が本気なのだとリュティアは悟った。
誰かと一緒に寝るなど、経験したことがないので少し不安だった。
しかし、シアが旅の面白おかしい話などをたくさん話してくれたので、その不安もいつの間にか消えていた。
だからこんな相談までできたのかもしれない。
「シア。大勢の人と話すのは、怖くありませんか? 私はどうも慣れなくて…」
「人が怖いの?」
「…はい、少し」
「そうねえ」
シアは毛布の上に横になって頬杖をつきながら、笑って答えた。
「大勢の人と話すときは、全員自分の好きな食べ物だと思えばいいのよ。いちごでしょ、みかんでしょ、ケーキでしょ、かぼちゃはジョルデかな、ほんれんそう…は嫌いだった」
「好きな食べ物…ええっと…カイは、大根…かなぁ」
「ぷっ、大根!?」
「大好きなのです。花の形にきれいに整えられて、かじると甘くて…」
「ああ、フローテュリア出身なんですってね。だから大根もきれいなんだ。それにしたって大根…ぷぷ。ああ、話がそれちゃった。ええとね、人と話すときのコツは、ほかにもあるわよ」
「コツ…ですか?」
「そう。こうして胸を張って、まっすぐに相手の目を見て、笑うこと!」
「笑う…」
シアが身を起こし、実演してくれる。
彼女の笑顔は本当に魅力的で、リュティアは到底自分にできる気がしない。
「ほら、笑ってみて」
「こ、こう…ですか?」
「うう~ん、まだまだぎこちないなぁ。そうだ、よく見ててよ」
言うなり、シアが突然眉を上下に動かし、目玉をまわし、鼻をつまんで舌を突き出してみせた。その顔があまりに面白かったので、リュティアは思わず笑ってしまった。
「そうそう! その笑顔よ!」
こんなに楽しい夜は、いつ以来だろうと、リュティアは思った。