聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
ヴァルラムが近づくにつれ、夏と言えども空気がひんやりとしてきた。特に朝晩は冷え込むのでと、ヨーバルがわざわざリュティアのために羽毛の布団を持ってきてくれた。
それは質こそ悪いが花園宮で慣れ親しんだものだった。
「この布団、中には何が入っているのですか」
リュティアが生まれて初めてこんな質問をしたのには、理由がある。
隊商に加わるようになってから、一週間。
リュティアはいっぺんに知らないことを知りはじめていた。最初こそそれは彼女にとって多少負担だったが、今ではすっかり慣れ、知らないことを知っていくのがだんだん楽しくなってきたところだった。
だから、興味津々で聞いたのであるが…
「お嬢ちゃん、知らないのかい? 中に入っているのは鳥の羽だよ、軽くて、あたたかいだろう?」
「鳥の羽…まあ、それでは鳥が寒がるのでは?」
「はっはっはっ。鳥はもう寒がることなどできないだろうね。死んでしまっているから」
「……え?」
―――翌朝。
「…くしゅんっ」
「リュティア、どうしたの? 風邪? ああっ、もしかして羽毛布団を使わなかったのね? せっかくヨーバルが用意してくれたのに。なぜ?」
「…………」
シアの問いかけに、リュティアはうつむく。
その目は寝不足なのか、少々充血している。
しばし黙したあと、リュティアは蚊の鳴くような声で言った。
「だって…鳥を殺して、羽をとるって、ヨーバルさんが…そんなの、あまりにもかわいそうで…私…」
「…リュティア」
それを聞いて、なぜかシアは懐かしそうに目を細めて微笑んだ。
「ふふ…あなたは本当にパールに似ているわね」
「…パール? シアの妹さん?」
「そうよ」
パールというのは、シアのたった一人の妹で、現在行方不明となっているため、ジョルデと二人、彼女を捜す旅をしているのだと聞いた。
シアはことあるごとにパールの名前を出し、照れ臭そうに笑う。だからリュティアはもう、シアはパールが大好きで、大好きで、大好きなのだと知っている。
それは質こそ悪いが花園宮で慣れ親しんだものだった。
「この布団、中には何が入っているのですか」
リュティアが生まれて初めてこんな質問をしたのには、理由がある。
隊商に加わるようになってから、一週間。
リュティアはいっぺんに知らないことを知りはじめていた。最初こそそれは彼女にとって多少負担だったが、今ではすっかり慣れ、知らないことを知っていくのがだんだん楽しくなってきたところだった。
だから、興味津々で聞いたのであるが…
「お嬢ちゃん、知らないのかい? 中に入っているのは鳥の羽だよ、軽くて、あたたかいだろう?」
「鳥の羽…まあ、それでは鳥が寒がるのでは?」
「はっはっはっ。鳥はもう寒がることなどできないだろうね。死んでしまっているから」
「……え?」
―――翌朝。
「…くしゅんっ」
「リュティア、どうしたの? 風邪? ああっ、もしかして羽毛布団を使わなかったのね? せっかくヨーバルが用意してくれたのに。なぜ?」
「…………」
シアの問いかけに、リュティアはうつむく。
その目は寝不足なのか、少々充血している。
しばし黙したあと、リュティアは蚊の鳴くような声で言った。
「だって…鳥を殺して、羽をとるって、ヨーバルさんが…そんなの、あまりにもかわいそうで…私…」
「…リュティア」
それを聞いて、なぜかシアは懐かしそうに目を細めて微笑んだ。
「ふふ…あなたは本当にパールに似ているわね」
「…パール? シアの妹さん?」
「そうよ」
パールというのは、シアのたった一人の妹で、現在行方不明となっているため、ジョルデと二人、彼女を捜す旅をしているのだと聞いた。
シアはことあるごとにパールの名前を出し、照れ臭そうに笑う。だからリュティアはもう、シアはパールが大好きで、大好きで、大好きなのだと知っている。