聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「シア、あまりそっちにいくと崖があるから危ないって―」

「ふっふ~ん。危なくなきゃ、度胸試しにならないじゃないの」

「度胸試し…?」

「そうよ!」

明るい光が差し込む方へ、シアはどんどん歩いていく。

やがてたどりついたのは、洞窟に無数にあいた穴のひとつからつながる、断崖絶壁の細い道の上だった。

ビュオォォォ、と風が吹き抜け、二人の髪と服の裾を揺らす。

遥か下には激しい川が流れている。

もし人間がいれば豆粒ほどにしか見えないくらいの、遥か下方に。

リュティアは足がすくんだ。

「シア! どうする気ですか? 戻りましょう」

「あっ、いいものを見つけた。見て、リュティア。あそこに花が咲いているでしょう? 私、今からあれをとってくるわ」

「ええっ!?」

シアが指した花とは、細い断崖絶壁の道を行った先、今にも崩れそうにせりだした足場の上に咲いた小さな白い花だった。

「無茶です! シア! 度胸はわかりましたから、戻りましょう!」

「だぁいじょうぶよこれくらい。リュティアは下がって見てて」

「シア!!」

リュティアが必死で止めるのも聞かず、シアはすでに細い道を歩き始めてしまっている。その体の半分は、すでに足場のない宙の上だ。

リュティアは顔を覆って、けれど指の隙間から、シアの度胸試しを見つめるしかなかった。

信じられないことだが、シアは危なげなく歩いて行って花を摘み、こちらを向いて微笑んだ。

…その時だった。

シアの立っていた足場が、急にガラガラと崩れ落ちたのだ!

シアの体が傾き、笑顔を凍りつくのを、リュティアはその目で見ていた。

「シア――――――――――!!!」

リュティアの口から、絶叫が迸る。

シアの体が重力に従い、落ちていく…!!

「いやぁぁ――!!」

気が付いたら、飛び出していた。

そしてそこには十分な足場がなかった。

リュティアはシアに手を伸ばす。

しかし、届かない―!

リュティアの体が傾き、――――――




墜落した。

シアを追うように。

何が起こったのか、わからぬままに。
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