聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
シアは目の前で広げた両手をゆっくりと握りしめながら続けた。

「会いたくて仕方がなかったの…絶対、絶対、会って見せるのよ。そして今度会えたら、絶対、ひっぱたいてやるわ。会えたら…」

その声はしだいに泣き声になった。シアはゆがめた顔を両手で覆った。

「本当は…パールは、あの子は、死んだのよ…」

「え―――?」

「パールは二か月前、魔月にさらわれたわ…あの子は忽然と姿を消してた…そしてそこには大量の、大量のあの子の血が残されていた…あれだけの出血量なら、助かる見込みはない…」

シアの指の隙間から、透明な涙が伝い落ちた。

「私はずっと怖かった…あの子の遺体をみつけるのが…あの子の死と向き合うのが…私は、本当は強くなんかない、強くなんかないのよ…会いたくて、会いたくて、だから…」

「シア……」

―だから瞬時に死を選ぼうとしたというのか。

リュティアは切なさに胸をつかれて声をなくした。旅の間シアが語ってくれたパールとの数々の思い出―お馬さんごっこをしたこと、高い高いをしたこと、森へ行くにも湖へ行くにもいつも一緒だったこと―シアが愛した妹のすべてが光のかけらのようにきらめき、粉々になっていくようだった。

「…私はあの子を失って何もかもを失ったわ。あの子の幸せが、私の幸せだったのよ」

泣き伏すシアをみつめながら、リュティアは悟った。

人の心を明るくする笑いの裏には、深い悲しみと絶望が潜んでいたのだということを。

その悲しみをリュティアは誰より良く知っていた。二人の悲しみは共鳴し合い、心に殷々と響きわたった。リュティアはこみあげてくる涙をこらえながら、何度もシアの背をさすった。

「だめね…私…死を選ぶなんて…あの子がそれを、喜ぶはずがないのに…でも時々こう思ってしまうの…どうしてこんな悲しい思いをしてまで、生きなければならないのかって。結局いつかはこんなふうに失うのに、なぜ人はこんなにも誰かを愛するのかしら…こんなに、こんなに、愛さなければよかったのかなって…」

それは違うと、リュティアは言いたかった。

その深い疑問は、リュティアの胸にあったものと同じだったが、リュティアはたったひとつの出会いでその答えを教えられていた。

だからリュティアも教えたかった。

悲しみの先にあるものを。

だが、言葉とはなんともどかしいのだろう。あと一歩で織り上がるタペストリーのようだ。言葉という糸と糸が織り合わさって今にも一枚の図柄が描き出されようとしているのに、あと一本の糸が足りない。

青々と輝く木々が、空が、二人を取り巻く世界の秘めた美しさが、力を貸してくれようとしているのがわかった。あともう少しだ。あともう少しで言葉にできる―――
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