聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「世継ぎである私がこの旅に出たのは、やむにやまれぬ事情があってのことよ。人の死は…いっぱい見てきたつもりだった。どれもこれも辛い別れだった。特に、もう一人の剣の師匠モーリッツの死は…私にとってあまりにも大きかった。実の父親よりも慕っていたから…。だから、人の死なんて慣れてるつもりだったのよ。強くなったつもりでいた。でも、三か月前…」

夜の闇には、ふくろうの鳴き声とシアの静かな声だけが響く。

「私のパールが、こつ然と姿を消したの。致死量の血痕を残して…。その数日前に、あの子は魔月を見たと言って怯えていたわ。だからきっと魔月がパールを…。パールは巫女なのよ。だから狙われてもおかしくはない。私は彼女の死を、到底信じられなかった。受け止められなかった。ジョルデにかなり無理を言って、旅に出たわ。世界中探したのよ。でもやっぱり…パールはどこにもいなかった。絶望して、きのうは死んでみたいとまで思ってしまった…ばかだったと思ってる。反省してるわ。そして、私、やっぱりまだ、諦めたくないの。ヴァルラムに帰って、あの子をもう一度、捜そうと思ってる…」

シアの頬を伝う一筋の涙に、カイは動揺した。

彼女が嘘を言っているようには思えなかったからだ。

それに、元気印のシアが語る事実は、あまりにも悲惨なものだった。

妹の死? 死のうとした?

まさか…。

言葉を失いえぐえぐと泣き出したシアの肩を抱いて、ジョルデが静かに語りだした。

「モーリッツは…私の最愛の…夫だった」

「え!?」

カイは思わず大声をあげてしまった。

モーリッツは死んだと、先ほどシアが言わなかったか。

それはつまり…

「そんな顔をするな、カイ、リュティア。もう何年も前のことだ」

ジョルデの声は静かで、ひたすらに優しかった。
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