聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「カイ…」

リュティアの視線がいつのまにか自分に向いていた。その目は「自分たちも事情を打ち明けたい」と訴えていた。

カイは…

ただ頷き返した。

腹を割って打ち明けてくれた彼らを、ついにカイも信頼する気になったのだった。

「フレイア王女、ザイドさん、ジョルデさん、話してくれてありがとうございます。今度は私たちが…本当のことをお話します」

リュティアは手元にあった水筒を手に取ると、おもむろにそれを自分の頭にぶちまけた。

「リュティア!?」

フレイアが慌てた声をあげたが、その声はすぐに喉の奥に詰まったようになる。

無理もない。

水に触れた部分から、リュティアの髪の色が黒から桜色へと変化していったのだから。

「私はフローテュリア王国第一王女リュティア・ティファリス・フローラル。そして…聖乙女(リル・ファーレ)なのです」

絶句する一同に、リュティアは今までの事情をすべて打ち明けていった。

フローテュリア滅亡のこと、聖乙女の力のこと、虹の聖具を集める旅をしていること、聖具を持った少年のこと…

涙なしには語れない部分もあり、そこはカイがかわりに語った。

話終えると、フレイアが突然リュティアを力いっぱい抱きしめた。

「リュティア…! あなたも、辛い思いをしたのね…!!」

「…はい…」

「信じるわ。あなたの言うことを…信じる。証に…これを」

フレイアが腰の短剣を引き抜いたとき、何事かとカイは警戒したが、その短剣でフレイアが自分自身の髪をひと房切り取ったのを見て、ヴァルラムの風習を思い出した。

自分の髪を切り取って渡す。それは…信頼の証であると。

「信頼の証よ、ヴァルラムではこうやるの」

「ありがとうございます…! フレイア王女」

「フレイアでいいわ」

「えと、ではフレイア。…私も、これを」

フレイアの短剣で、リュティアも自分の髪を一房切り取って、渡した。

互いの髪を手にした二人がくすぐったそうに笑うのを、カイはほほえましい気持ちで見ていた。
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