聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「二人は虹の聖具を探していると言ったわね。少年の持つ額飾りのことは何もわからないけれど、ヴァルラムで保管されてきた“虹の指輪”のことなら知っているわ」

「え?」

「パールは巫女だと言ったでしょ。巫女として彼女が長年守ってきたのが、聖具“虹の指輪”なのよ。でも残念ながら…虹の指輪は、三か月前、パールが失踪したのと同時に盗まれてしまったの。おそらくは魔月に…」

「聖具が…盗まれた…」

リュティアはしばしショックを受けた様子で考え込んでいたが、不意に希望を宿した目でフレイアを見上げた。

「では、パール王女の居場所がわかれば、聖具の場所もわかるかも知れないんですね」

「え」

フレイアが目を丸くする。

そしてぱっと笑顔になった。

「それじゃあ、…私たちは、仲間だわ。一緒に、互いの捜し物をさがす、仲間。一緒に、王都ヴァラートまで行きましょうよ」

「……仲間……」

(……仲間……)

おそらく、リュティアもカイも、同じ気持ちでいただろう。

仲間という言葉の響きに、不思議なあたたかさと、くすぐったさを感じていたに違いない。

これからは、一緒に、聖具と、パールをさがすのだ。

たった二人に比べれば、どれだけ心強いだろう。

「はい!!」

喜色のにじむリュティアの声に合わせて、カイも頷く。





一行は誰一人として気づいていなかったが、木陰でこのやりとりをただじっと聞いている影があった。

それは赤い影。燃えるような赤毛の男の影だった。
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