聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
ねじれた闇の道をどれだけ行っただろう。気がつくとライトは、青く輝きを放つ黒い石を磨きぬいてつくられた広大な空間にいた。

ライトは抵抗することも忘れて周囲に見入った。

なんという広さであろうか。足音は余韻を残してまだ高く響き渡り、天井は暗がりに消えて見えなかった。

左右の壁に無数に並ぶ大小様々な穴、その穴のひとつひとつに角を伏せた獣たちが眠っていることに気付くと、ライトは寒気を覚えた。

どうやら自分は魔月たちのねぐらに連れて来られてしまったようだ。ここは地の底、星の核、山の礎にちがいない。からっぽになっている巣があるのは、そこからすでに魔月が目覚めて地上に旅立ったということなのだろうか。

「一部の同胞たちはすでに目覚め、大いなる戦いをはじめているのだ」

ライトの考えを読んだかのように、バッファローの頭を持つ悪魔が言った。

「まずは“闇の間”にご案内いたします」

ライトを取り囲むようにしながらどしどしと足音を響かせて歩きだす魔月たちに、ライトはついて行ってみることにした。ライトの大事な剣を、ヴァイオレットが体から引き抜きその翼に挟んでいたからだ。隙をついて奪うことができるかも知れない。もちろん、油断なく丈の短い剣を構えるのは忘れない。

それにしても彼らに自分を害するつもりがないようなのが不気味だった。こんな所に連れてきて一体どういうつもりだろう。本当に自分の衝動の理由を知っているというのだろうか。それともそれは自分を誘い出すための大嘘で、本当はただ殺すよりも恐ろしい方法で自分を殺すつもりなのか…。

ライトがあれこれ思いをめぐらしているうちに広大な広間が終わり、魔月たちの足が止まった。どうやら目的の闇の間についたようだった。その部屋からは冷えた空気が漂ってきて、ライトの肌を粟立てた。
< 62 / 121 >

この作品をシェア

pagetop