聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「どうぞ、お入りください」
魔月たちは次々と中に入っていったが、ライトはその部屋の入口で立ち止まり、用心深く中に目をこらした。
最初その広い部屋は名前のとおり、深淵の闇に包まれた何もない空間かに見えた。だが、闇に目が慣れてくると――
部屋には一面真っ赤な絨毯が敷き詰められているのがわかった。いや違う。絨毯ではない。
「これは…石…?」
絨毯のように見えたものの正体は親指の爪ほどの大きさの、赤い石だった。それが気の遠くなるような数、床一面に積み重なっていたのだ。
「我々が来るべき日のために集めた邪闇石だ。早く、手に取ってみろ」
言われるまでもなく、ライトは不思議な衝動に駆られてその石を手に取っていた。
すると石がぽう、と内側から禍々しい真紅の光を放ち、生きているかのように脈打った。そのおぞましさにライトは思わず石を放りだした。
「なんだ、これは?」
「おお、やはり」
「皆、ご覧になりましたね」
「ああ、確かに邪闇石が反応を示した」
魔月たちは興奮気味に囁き交わすと、一斉にその場に跪き、頭を垂れた――ライトに向かって。そして声を揃えてこう言ったのだ。
「あなた様こそ、我ら魔月の王、伝説の〈猛き竜〉(グラン・ヴァイツ)――我らはこれより唯一人あなた様に従います」
――と。
その時ライトは冷静だった。ふっと唇を歪めて笑い飛ばした。
「なんだって? 俺が魔月の王? 嘘ならもっとましな嘘をつけ。どこをどう見たら俺が魔月に見える。角もない、赤い目もない、獣でもない、俺は人間だ」
冷えた空気に、ライトだけ吐く息が白い。とりもなおさずそれは彼が生身の人間であることを物語っている。
「あなたがそのようなお姿でお生まれになったことには、理由があるのです。聖乙女の伝説を、もちろんご存知ですよね?」
だからなんだとライトが険しい視線で応じても、ヴァイオレットはまったく意に介さず、どこか陶酔するような声音で語った。
魔月たちは次々と中に入っていったが、ライトはその部屋の入口で立ち止まり、用心深く中に目をこらした。
最初その広い部屋は名前のとおり、深淵の闇に包まれた何もない空間かに見えた。だが、闇に目が慣れてくると――
部屋には一面真っ赤な絨毯が敷き詰められているのがわかった。いや違う。絨毯ではない。
「これは…石…?」
絨毯のように見えたものの正体は親指の爪ほどの大きさの、赤い石だった。それが気の遠くなるような数、床一面に積み重なっていたのだ。
「我々が来るべき日のために集めた邪闇石だ。早く、手に取ってみろ」
言われるまでもなく、ライトは不思議な衝動に駆られてその石を手に取っていた。
すると石がぽう、と内側から禍々しい真紅の光を放ち、生きているかのように脈打った。そのおぞましさにライトは思わず石を放りだした。
「なんだ、これは?」
「おお、やはり」
「皆、ご覧になりましたね」
「ああ、確かに邪闇石が反応を示した」
魔月たちは興奮気味に囁き交わすと、一斉にその場に跪き、頭を垂れた――ライトに向かって。そして声を揃えてこう言ったのだ。
「あなた様こそ、我ら魔月の王、伝説の〈猛き竜〉(グラン・ヴァイツ)――我らはこれより唯一人あなた様に従います」
――と。
その時ライトは冷静だった。ふっと唇を歪めて笑い飛ばした。
「なんだって? 俺が魔月の王? 嘘ならもっとましな嘘をつけ。どこをどう見たら俺が魔月に見える。角もない、赤い目もない、獣でもない、俺は人間だ」
冷えた空気に、ライトだけ吐く息が白い。とりもなおさずそれは彼が生身の人間であることを物語っている。
「あなたがそのようなお姿でお生まれになったことには、理由があるのです。聖乙女の伝説を、もちろんご存知ですよね?」
だからなんだとライトが険しい視線で応じても、ヴァイオレットはまったく意に介さず、どこか陶酔するような声音で語った。