聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~

金色の夕焼けの下、ライトは丘のふもとから大神殿を振り仰いだ。

蛇のようにくねって続く純白の大理石でできた大階段は、500段あるといわれている。その道の示す終着点―丘の頂に、その壮麗な神殿は鎮座していた。

中央の主塔では大ステンドガラスが夕陽を受けて神々しいまでの輝きを放ち、左右対称に立ち並ぶ尖塔は重々しくも美しく、迫力があった。

天高く突き出た高楼にて見るものを圧倒せずにはおかないだろう巨大な鐘。

あれは朝夕二回、その深い音色を街中に響かせるという。

その昔鎖国していたフローテュリアと友好を育み開国に導いたヴァルラムの賢王アルテスが、フローテュリアから友好の証として譲り受けたのが、大神殿に奉納されている聖具“虹の指輪”だという。この壮麗極まる大神殿は聖具を奉るためだけに造られたのだ。

ライトは階段を登り始めながら、自分が何のために大神殿に向かっているのか、自分でもよくわからずにいた。

魔月たちに出会ってからここ数日間、ライトはどうしても炎や雷の力を使えなかった。

魔月の力…その言葉が頭にこびりついて離れなかったのだ。

確かにどんな伝承でも、魔月たちは炎や雷の力を使っている。だから自分の力は魔月の力だというのか? 

力を使わないでいることは、拷問のように苦しかった。

もっと力を使え、もっと力を手に入れろと内側から突き上げてくる衝動との戦いだった。この衝動は、自分が魔月だからなのか?

ライトは気づきたくなかったが、魔月たちの言葉すべてにひどく動揺していた。ライトの動揺に呼応するかのように頭痛もひどくなる一方だった。

大神殿で祝福を受ければ、自分は魔月などではないと証明できるような気がしていた。頭痛も治るかも知れない。自分では否定していたが、あのキマイラに言われたからでもあった。すべてがわかる、と。
< 69 / 121 >

この作品をシェア

pagetop