聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「そういう…ことだったのか…」
母の腹の中にいる時から、意識を持ち、欲望を持ち、たった一か月で母を殺して生まれてきたこと。
それゆえに忌まれトゥルファンの山奥に捨てられたのを、その山に住む仙人が拾い、息子として育てたこと。
銀の額飾りをもらった記憶は捏造で、本当はもっと幼い頃にライトの記憶を封じるために、仙人がその聖なる力を込めてライトに身につけさせたこと。
「全て…全て…嘘だったのか…あの夜も、あの朝も、あの言葉も…! すべては俺を騙すためだったのか…!!」
ライトは立ち上がって吼えた。それは激しい慟哭の叫びのように聞こえた。
その叫びを受けて突如としてあたりに爆炎が巻き起こった。あちこちで激しい火柱が上がり、祈っていた人々や神官たちが悲鳴を上げて逃げ散った。
全ては嘘の上に成り立つ、茶番だったのだ。愛も、悲しみも…!
「忌々しい仙人め…!!」
激しい怒りが、ライトの身も心も焼き滅ぼしてしまいそうだった。
本当は父は―仙人は病で死んだのではなかったのだ。
「俺が、殺したんだ…」
そう、一時的に記憶を取り戻したライトがこの手で、殺したのだ。
仙人は最後の力を額飾りに注ぎこみ、その記憶をもつくりかえた―。
「俺は、俺は、生まれた時から猛き竜(グラン・ヴァイツ)…魔月王、ライトファルスだ…」
赤く紅く燃え上がる炎を照り返す彼の頬に、一筋の涙がこぼれ落ちた。怒りの滝の中にこぼれおちたその一筋の感情の名を、彼は知らなかった。知る必要が、なかった。
「そうです、ライトファルス様」
いつの間にか彼の背後には、四体の魔月が跪いていた。
「俺の名はゴーグ」
端の巨人が名乗った。
「我が名はグランデルタ」
「私の名はゾディアック」
続いて牛の頭の悪魔が、三つ頭のキマイラが名乗った。
「我ら四魔月将、あなた様とともに〈大いなる戦い〉を始める準備は、すでに整っております」
ライトは彼らに背を向けたまま静かに拳を握りしめ、瞼を閉じた。涙はあたり一帯を包む熱で蒸発していた。
「―どうすればいい」
短い問いかけは、ライトが彼らを受け入れたことを意味していた。
「我らが戦う相手、それは聖乙女(リル・ファーレ)だ。奴は聖具がなければ無力。まずは聖具を破壊するのだ、猛き竜(グラン・ヴァイツ)よ」
「―わかった…」
ライトはゆっくりと瞳を開いた。赤い炎を映すその双眸には、決意の光が宿っていた。
「聖具のうちふたつは、ありかがはっきりとわからない。この額飾りは…聖具ではなかった。仙人め、本物の聖具“虹の額飾り”をどこに隠した…だがひとつはありかも守護者もはっきりとわかる。―今からそれを、壊しに行く」
「御意」
炎がゴゥッとうなりを上げて、神殿を舐め尽くしていく…。
母の腹の中にいる時から、意識を持ち、欲望を持ち、たった一か月で母を殺して生まれてきたこと。
それゆえに忌まれトゥルファンの山奥に捨てられたのを、その山に住む仙人が拾い、息子として育てたこと。
銀の額飾りをもらった記憶は捏造で、本当はもっと幼い頃にライトの記憶を封じるために、仙人がその聖なる力を込めてライトに身につけさせたこと。
「全て…全て…嘘だったのか…あの夜も、あの朝も、あの言葉も…! すべては俺を騙すためだったのか…!!」
ライトは立ち上がって吼えた。それは激しい慟哭の叫びのように聞こえた。
その叫びを受けて突如としてあたりに爆炎が巻き起こった。あちこちで激しい火柱が上がり、祈っていた人々や神官たちが悲鳴を上げて逃げ散った。
全ては嘘の上に成り立つ、茶番だったのだ。愛も、悲しみも…!
「忌々しい仙人め…!!」
激しい怒りが、ライトの身も心も焼き滅ぼしてしまいそうだった。
本当は父は―仙人は病で死んだのではなかったのだ。
「俺が、殺したんだ…」
そう、一時的に記憶を取り戻したライトがこの手で、殺したのだ。
仙人は最後の力を額飾りに注ぎこみ、その記憶をもつくりかえた―。
「俺は、俺は、生まれた時から猛き竜(グラン・ヴァイツ)…魔月王、ライトファルスだ…」
赤く紅く燃え上がる炎を照り返す彼の頬に、一筋の涙がこぼれ落ちた。怒りの滝の中にこぼれおちたその一筋の感情の名を、彼は知らなかった。知る必要が、なかった。
「そうです、ライトファルス様」
いつの間にか彼の背後には、四体の魔月が跪いていた。
「俺の名はゴーグ」
端の巨人が名乗った。
「我が名はグランデルタ」
「私の名はゾディアック」
続いて牛の頭の悪魔が、三つ頭のキマイラが名乗った。
「我ら四魔月将、あなた様とともに〈大いなる戦い〉を始める準備は、すでに整っております」
ライトは彼らに背を向けたまま静かに拳を握りしめ、瞼を閉じた。涙はあたり一帯を包む熱で蒸発していた。
「―どうすればいい」
短い問いかけは、ライトが彼らを受け入れたことを意味していた。
「我らが戦う相手、それは聖乙女(リル・ファーレ)だ。奴は聖具がなければ無力。まずは聖具を破壊するのだ、猛き竜(グラン・ヴァイツ)よ」
「―わかった…」
ライトはゆっくりと瞳を開いた。赤い炎を映すその双眸には、決意の光が宿っていた。
「聖具のうちふたつは、ありかがはっきりとわからない。この額飾りは…聖具ではなかった。仙人め、本物の聖具“虹の額飾り”をどこに隠した…だがひとつはありかも守護者もはっきりとわかる。―今からそれを、壊しに行く」
「御意」
炎がゴゥッとうなりを上げて、神殿を舐め尽くしていく…。