聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
謁見の間にて、リュティアは桜色の頭を垂れながら、全身で物々しい空気を痛いほどに感じていた。

玉座の前に鮮やかな緋色の絨毯が敷かれ、そこに跪いたリュティアとカイを挟むように、槍を手にした全身鎧の兵たちがずらりと二列に並んでいる。

彼らの背後には緋色、ヴァルラム王権の象徴たる色彩を宿した旗が、まるでこの灰色の広間を照らす灯のように等間隔にはためいている。

「―事情はだいたいわかった、リュティア王女。いや、聖乙女(リル・ファーレ)様とお呼びすべきかな。さぞや大変な思いをされたことじゃろうて。武骨な我が城でよければ好きなだけ滞在なされるとよい。聖具も見つかり次第そなたらに授けよう。顔をあげられよ」

老人王エライアスの良く響く重々しい声に、リュティアはわずかに頤を持ち上げてエライアスをみつめた。

彼の白い髪、白い髭からは雪の如く降り積もった年月が感じられたが、その瞳は獰猛な獣のような隙のない光を放っていた。

「ありがたきお言葉にございます」

玉座に堂々と座し、侍従が捧げ持つ盆から杯を手にとるエライアスの威厳に打たれて、リュティアは伏し目がちになった。エライアスの気配が、存在感が、間違いなくこの謁見の間を支配していた。

「しかし」

王は金の杯をぐっとあおると、まっすぐにリュティアの目を見て告げた。

「それ以上の再興への協力は、一切できん」

リュティアとカイは耳を疑った。

カツン、と空の杯が盆に置かれる音がやけに大きく響いた。

「今…なんと?」

「協力はできん、と言ったのじゃ」

その言葉は鈍器で殴られたような衝撃を二人に与えた。

二人は見る間に青ざめた。

兄弟国のヴァルラムからこのような言葉が出てくるとはまったく思いもよらなかったのだ。

かろうじてリュティアは震える唇から声を押し出した。

「なぜ、なぜなのですか。理由をお聞かせください」

「確かに、フローテュリアは我が国の長年の友好国。だが今はもう、民も領土もない。一切の富のない国に協力したとて我が国にもたらされるものは皆無。ただそれだけじゃ」

「それは…確かに、そうかも知れませんが…再興した暁には―」

「それに」

エライアスの目の中に剣呑な光が宿った。

「大事に育ててきた甘い果実も熟れれば刈り取るもの。もとより収穫にはちょうどいい頃合いだったと、わしは思うておる」

「…………!!」

これにはカイも思わず顔を上げてエライアスを凝視した。

信じられないことだが、王の言葉は長年の和平の約束を破り、もとよりフローテュリアを攻める気があったという意味だった。
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