聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
ジョルデが何事かフレイアに耳打ちした。

それを受けて、フレイアが不敵な笑みを浮かべて言った。

「ではここは武勇の国ヴァルラムらしく、“聖試合”で決めましょう。お心の広い国王陛下なら、それぐらいのチャンスは与えてくださいますよね?」

「なに」

「それも許せぬほど狭量な王の治める国など、私は継ぎませんからね」

「…フレイア」

エライアスは完全にフレイアの勢いにおされていた。

そのフレイアと結んだ目線からはにじみ出るような愛情が感じられ、一人の父親としての弱い部分が垣間見えた。

エライアスは玉座のひじ掛けにもたれていた腕を持ち上げ、思案するように顎を軽くつまんだ。

「わかったわかった。そなたがそこまで言うなら“聖試合”を行おうではないか。フローテュリアが価値ある国だということを、強さで証明して見せるがいい。そうすれば、なんでも協力してやる。ただし、ヴァルラムの代表者はわしが決めるぞ、よいな」

「ありがとうございます! お父様!」

「…フレイア、聖試合って?」

話についていけないリュティアが小声で尋ねると、フレイアがぱっと輝く笑顔で振り返った。

「剣の一本勝負よ。カイ、あなた、強いんでしょ?」

いきなり話を振られたカイはぎょっと目を剥いた。

「わ、私は――」

「ヴァルラム代表はそうじゃな、お前の師範役ジョルデに任せよう。ジョルデ、頼んだぞ。手を抜いたりしたら承知しない」

「武人の誇りがありますれば、そのようなことはございません」

ジョルデのその言葉に嘘はないのがわかった。

彼女は本気で戦うつもりだ。

なんということだろう。

カイが剣を大の苦手とすることを、フレイアたちは知らなかったのだ。

相手がジョルデなどと、とんでもないことだ。一瞬で勝負がついてしまう。

「フローテュリア代表は、どうする?」

「そ、それは…」

リュティアは咄嗟に、こう返答していた。

「最適な武人を選定しますゆえ、今しばしお時間を…」

それで謁見は終了した。
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