聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~

カイは一人がむしゃらに駆けながら、情けない思いでいっぱいだった。

自分ときたら、意地っ張りで、役立たずで、どうしようもない!

ジョルデに剣で勝てる見込みなどないことはわかっていたはずなのに、自分の意地を優先させてしまった。結果がこれだ。

リュティアに優しい言葉のひとつもかけてやれないで…自分ときたら、自分ときたら、あんまりではないか!

―どうしてもっと立派な男になれないのだろう。これではリュティアがほかの男を好きになっても仕方がない。

カイは自分のその考えに打ちのめされた。

もっと立派な男になりたい。

そして愛されたい。

リュティアに愛されたい!

涙を浮かべながら走り、いつのまにかカイは彼に与えられた客室にたどりついていた。

後ろ手にドアを閉め、荒い息をつく。

リュティアにとって、自分はなんなのだろう。

大好きな兄だと告げたリュティアの笑顔が浮かび、カイはどん!と壁を叩いた。

今さら兄になど、なれない!

荒ぶる感情に身を任せていたカイは、この時忍び寄る気配に気が付かなかった。

それは…とてつもなくまがまがしい気配。

そう。ちょうど神官長やフレイアが、パールのことで語っていたのとそっくりな、凶悪な気配だった。

カイがそれに気づいた時には、すでに遅すぎた。

遅すぎたのだ。
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