聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「私は信じません」

リュティアはきっぱりと言った。

彼女らしからぬことだが、少し怒っているのだ。

「早く、パール王女とカイを返してください!」

「それはちょっと聞けない頼みだなぁ。何せ一人は死んじゃってるから」

「…え!?」

「死んだのはどっちだと思う?」

リュティアはたちまち顔面蒼白になった。

パール王女であれば、フレイアの悲しみはいかばかりか。

カイであることなど、考えたくもない。

リュティアの反応を楽しむように見つめている少年を、リュティアはきっと目を吊り上げてみつめた。動揺すれば相手の思うつぼだと思ったのだ。

「大丈夫、パールヴァティー王女の方だよ。もっともおにーさんの方も、無事かどうか保証はないけどね?」

信じるものか。

信じてはならない。

「あなたが本当に聖具の番人だというなら、なぜこんなひどいことをするのですか? あなたは聖乙女の味方ではないのですか!?」

「さあ~ね。それは君が決めることじゃない? それよりこんなところで立ち話もなんだから、僕の領域を案内してあげるよ。おにーさんにも会えるかもよ?」

「カイ!? カイはどこなのです!?」

「行こうか。話したいこともあるしね。ついておいで」

番人はふわりと地面に降り立つと、先に立って森を歩きはじめた。

その緑に埋もれそうな小さな背中を追いかけるべきか、リュティアは迷った。

けれど、この森の中からカイを自力でみつけるのは不可能に思える。

もしも少年が聖具を持っているなら、それを譲り受ける必要もある。

ついていくしかない、とリュティアは腹をくくって、少年の後を歩き始めた。
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