聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「…………」

リュティアの頭は混乱していた。

一時に与えられた情報が多すぎる。

なぜこの少年はそんなことを知っているのか。

それは彼が、本当に聖具の番人だからなのだろうか。

リュティアがぐるぐると考えすぎて何も言えないでいるのを見越しているのか、少年はリュティアの方を見ずに続ける。

「君にはぜひ、使命の重さをわかってほしい。だからおにーさんをさらったんだと言ったら、納得してくれる?」

「…どういう、ことですか」

「こういうことさ」

番人の声に反応するように、唐突に、空間が虹色にねじれて森が終わった。

それは今まで見ていた長い夢から唐突に覚めるような、あまりにも急激な変化だった。

熱気が頬を焼いた。

何がどうなっているのかわからない。

わからずとも、足元に広がる光景に我知らず息をのんでいた。

そこには赤い溶岩の海が、灼熱の揺らぎの中にどこまでも広がっていた。

そしてその溶岩の海の中央に、人影をみつけてリュティアは声にならない悲鳴をあげた。

夢から覚めたと思ったのに、これは悪夢の続きではないか!

両手で口を覆い、かろうじて声を上げる。

「…カイ…!!」

溶岩の海の真ん中、いかにも脆く今にも崩れ落ちそうな岩の足場の上に、カイが立っていた。

カイにけがはないようだった。やはりあの鮮血は番人の演出だったのだ。

だが少しも安心などできなかった。ただでさえ心もとない彼の足場が、今この瞬間にもぱらぱらと崩れているのだ。
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