聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
「なんてひどいことを! 早く、カイを助けて!」

「それはできない」

「なぜ!!」

リュティアの絶叫が、カイの耳にも届いたようだ。

「リュー!? リューなのか!?」

「カイ!!」

リュティアに気づいたカイは思わずといった様子で足を踏み出そうとして、崩れる岩に阻まれた。崩れた岩を溶岩が真っ赤な口を開けて飲みこんでいった。

番人はふわりと浮かび上がると、もうひとつの岩の足場の上に降り立ち、手をかざした。するとその指に虹色に光る宝石のはまった世にも美しい指輪が現れたのだが、リュティアはろくに見ていなかった。

「お願いします! 番人だと、認めますから、なんでもしますから、早くカイを」

「それはできないと言っただろ。
いいかい? 君には覚悟を決めてもらわなければならない。
世界を背負って立つ覚悟を。
だから君に二つの道をあげよう。
ひとつは、僕のもとに…つまり聖具虹の指輪にたどりつく道。
そしてもうひとつは、おにーさんのもとにたどり着く道。
でもどちらの道も、一度通れば崩れ、後戻りできなくなる。さらに言っておくと、おにーさんを選べば僕は二人とも溶岩の海に沈めるつもりだ。その程度の覚悟しかない聖乙女など、いてもいなくても同じだからね。
甘えるな、使命は生易しいものじゃない。僕はそう言いたいんだ。わかるね?
さあ、選ぶといい」

「…!!」

少年の言葉に合わせて、カイと少年、二人に通じる細い岩の道が溶岩の上に浮かび上がった。

フローテュリア王国再興のため。

亡き父や兄の想いに報いるため。

そして世界のために…

リュティアはカイを捨て、聖具を選ばなければならなかった。

不思議なほどに、リュティアはこの過酷な二択で迷うことがなかった。

リュティアはまっすぐに行き先を定めると、走り出した。
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