聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~
踏みこむ一歩ごとにリュティアの足元で岩が崩れ、溶岩の中に消える。

リュティアは前だけをみつめていた。

リュティアはカイだけをみつめていた。

この選択に、一番驚いているのは、カイのようだった。

「ばかな…リュー、なぜこっちに来た…! わかっているのか! 二人とも、死んでしまうんだぞ!」

「カイとなら!」

リュティアはカイの両腕をつかみ、まっすぐに彼の瞳をみつめた。

カイと喧嘩してしまった痛み。

カイを失うかも知れないと思ったときの恐怖。

この胸の中に渦巻く気持ちを、どうしたら伝えられるだろうと、それだけを考えながら必死で言葉を紡いだ。

「カイとなら、死ねると思いました。いつだって一緒…そうでしょう? だってカイは、私の、世界で一番大切な人なんですもの!」

「!!」

その言葉に、カイは涙ぐんだ。

その言葉で、どれほどカイが救われたか、リュティアは知らないのだった。

リュティアは言ったのだ。カイとの絆こそが、世界一の絆だと。

それが紛れもないリュティアの心なのだと。

その絆は、家族に対する絆なのかもしれない。

しかしそうだとしても、世界で一番大切なのは、カイなのだと。

カイはこの時思っていた。

リュティアの愛に気づかずに、愛されたいと願い続けた自分が愚かだったと。

その愛がまだ恋じゃなくても、それでも構わない。

自分が変わることができるなら、その気持ちを恋にすることだっていつかはできるはずだ。すべては自分次第のはずだ。

たとえ死者の国に行っても、必ず振り向かせて見せる。

そして、誰よりも愛していると、いつかきっと伝えて見せる。
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