音色
(このまま、あたしの記憶ごと飛んじゃえばいいのに…)

あたしは奏にしがみつきながらそう思った。


「ごめん、あんなとこで」


奏は申し訳なさそうに言った。

(謝ることないのに…)

「髪、乾かしてあげる」

起き上がれないあたしを優しく抱えて奏は言った。
奏の細い指があたしの髪の毛を撫でる。
なんだかマッサージされてるみたいに気持ちいい。

(今までちゃんと見たことなかったけど、奏って細いのにしっかり筋肉ついてるんだなぁ…)

ぼんやりそんなことを思った。

「………好きだよ、奏。」

ドライヤーの音で聞こえないうちに、あたしはそう呟いた。
でも、最初からいつか別れが来るのが分かっていたはずなのに、こんな気持ちにならなきゃよかったと思ったら、目に涙が溢れた。
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