音色
あたしが雨の日に奏のことを芸術家みたいだと言った時、奏は哀しそうに笑った。
その表情の意味がやっと分かった。


「でもさ、琴音は仕事毎日頑張ってて。こんなに細くて小さいのにさ。俺、琴音に何で今の仕事しようと思ったのか聞いたよね?」

「うん、聞いた」

「その時、琴音は自分の作ったスイーツを食べた人たちに幸せな気分になってもらいたいって言ったじゃん?」

「うん」

「俺もそうだったのに、って思った。俺の弾く箏の音色を聴いて和楽器っていいなってそんな気持ちになってもらえたらって思ってたのに忘れかけてた。琴音にそういう気持ち、思い出させてもらった」

「えー…それはいくらなんでも言い過ぎじゃない?」

「そんなことないよ。…俺も、自分がやるって決めたことは信じることにしたんだ。注目されれば、活動の幅も広がるし、例え遠回りしようとも意味のないことじゃないなって。逃げたら、もうそこで終わりだもんね」

奏はあたしの目を真っ直ぐに見つめた。
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