その消しゴム1mmに誓って
チャイムが鳴った。光希にとっていつもよりも頭に残るチャイムであった。窓から差し込む朝日が眩しくて光希は暫くうつ伏せになっていた。

もう一度チャイムが鳴ると、光希と宇川は教卓の前で立たされていた。それは下手な裁判よりもとても恐ろしいものだった。二人はお互いの言い分をクラスで話した。光希はなにも偽ることはしなかったし、できなかった。ただあったことをありのままに話した。事態をややこしくしたのは宇川だった。宇川は自転車に乗っていたのは光希の方で、話の内容はそっくりそのまま真逆なのだと話した。真実を知ってか知らずか、クラスメートは暴言を吐き出した。拓真は特に助け舟を出すこともなく黙っていた。勿論、拓真は宇川が嘘をついていることも光希が徒歩登校だったことも知っている。昨日から宇川は色々と小細工をしかけていたのだ。しかし登校してから目も合わせず助けも求めない光希を面白く思えなかったのだ。友達だと思っているのは自分だけだったか、と思い込んでいたのである。一方光希は未だ頭に拓真の存在はなく、黙って罵倒を浴びせられていた。恐怖感を感じている眠っていた自分と今の状況を冷静に分析しているもう一人の自分が光希の思考を更に混乱まで追いやった。たくさんの罵詈雑言を一瞬にして止めさせたのは担任の教師だった。
「わざわざ時間をとってこの話をしたのは金田に改心をしてほしいからだ。みんなもクラスメートの仲間として金田と一緒にこの事について考えてほしい。」
長かったように思えた数分を終わらせようと皆が一斉に黙った。
「光希は言いたいことあるか?」
「……」
光希は何も言わなかった。床に穴でも開けるかのように木目を睨んでいた。
教師が場を終わらせようと声を発した時、教室一番後ろの廊下側の席から、はいという元気な声と真っ直ぐ天井に向かって白い腕があげられた。水嶋遥。学校一の変わり者として有名人だった。そして、宇川が吹き込むことの出来なかった唯一のクラスメートだった。彼女には友達と呼べる関係の人物がいなかったのである。驚いた教師は一瞬戸惑ったが、遥を立たせた。
「どうして先生は、宇川君が行っていることを信じるんですか?宇川君に頼まれたからですか?」
ニコニコしている表情と裏腹、核心を一発で突くような発言に一瞬場の空気が変わり全員の視線が遥と教師の間に集まった。
「宇川に相談されたからだ。相談に乗るのは担任の勤めだからな」
「あ、そうですか。金田君、よかったね。先生に相談すれば先生は金田君の話、信じてくれるってさ!」
「水嶋!屁理屈はやめなさい!」
「あれれ、先生がそう言ったと思ったんですけどもね。あはは。でもだとすれば私は先生の事見損なっちゃいますよ。つまり先生は私たちに伝えてない何らかの証拠をもとに宇川君を信じているんですよね。私だけなのかもしれませんけども。私には宇川君が正しくて金田君が間違っているなんて思えません。別に宇川君が嘘を言っていると言っているわけではないんです。どちらも信じられないこの状況で何故先生は金田君が改心すべきだと断言できるのでしょうか。理由が知りたいです。何で伝えてくれなかったんでしょう。」
遥は冗談ぶった口振りで淡々と話している。逆にそれがクラス内の恐怖感を煽った。
「目撃者がいたからだ。事故を見たものは居なかったが宇川がその日歩いているところを見たものはいる。それに、金田は毎日自転車登校だろ。雨が降っていても自転車の可能性はすてきれない。」
「そうですかそうですか……。あーあ。無駄な質問でしたね。わかったことはこのクラスの奴、まあ私も含めですけど。と、先生がどうしようもないただのゴミだったっていうことだけじゃないですか。」
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