一般人令嬢は御曹司の婚約者
お腹いっぱいになってファミレスを出る。
カードを出そうとする御曹司を制して、一万円札を出した。
どうしてという目を向けられたが。

「ここはお姉さんに任せなさい」

どーんと胸を張り、にかっと笑ってやる。

「同い年の癖に生意気だぞ」

御曹司は肩をすくめてから、カードを懐にしまった。
私の嫌がることはしないを忠実に守っている。

ファミレスを出てから適当にぶらつく。

「おい、どこ行くんだよ」

「お金を使わない楽しみ方を教えてあげるわ」

「男は貢がないといけないんじゃないのかよ」

やっぱりそんな事思ってたのね。
高級ブティックに連れて行かれたとき、もしやと思ったけど。

「誰がそんな事決めたのかしら、少なくとも私はそんなものいらない」

「なっ……!」

「さあ、行きますよ」

私は御曹司の手を引いていろんなところを歩き回った。
ショッピングモールに入り、お手ごろ価格の服屋をあさる。
お互いに着せるだけ着せあって、買わずに次へ。
文具コーナーはなかなか面白く、サンプルを使ってははしゃぐ。
家電のマッサージチェアを体験したり、食品売り場の試食を制覇したり。
そのほか、気になった店に手当たり次第入っていった。

そうこうしているうちに、時間は結構たっていて。

「ふーっ、疲れたー」

「久々にこんな歩いた……」

よいしょとベンチに腰をおろして、休憩する。
私たちの手に、買い物袋は存在しない。

「車ばかり使ってるからでしょ、おぼっちゃま」

「うるせー。お前も似たようなもんだろ」

「…………そう、ね」

祝前麻里奈なら、そうかもしれない。

「どうかしたか?」

私の些細な表情の変化に気付いた御曹司が、顔をのぞきこんでくる。

「いいえ、なんでも……」

「あー、学校サボってこんなところにいたのー」

「ほんとだー。イケメン捕まえて逆ナン?」

「根暗のクセに生意気ーキャハハ!」

聞き覚えのある声にはっと顔を上げれば、見覚えのある制服を身にまとった女子集団がいた。
< 103 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop