一般人令嬢は御曹司の婚約者
「その節は大変お世話になり、ありがとうございました」
「構わない。礼ならそこのお兄さんからたっぷり頂くから」
「取立て屋みたいな事言わないでよ。誤解が起きる」
マスターが苦笑して、天花寺さんに意見する。
しばらくすると、天花寺さんは呼ばれて行った。
「お幸せに」
私にそう言い残して去っていったけれど、どういう意味かな。
「あいつ、弟がやってる喫茶店の常連なんだよ」
彼女の背を見送っていると、マスターが教えてくれた。
「礼ってのは、俺の淹れる特製コーヒーだから」
「そうですか」
私が、大金を払うものと思ったことに気付いていたらしい。
罪悪感を感じさせないよう、言ってくれたのだろう。
そんな優しさにも胸が温かくなる。
ほんと、いいお父さんだよ。
「ご無沙汰しております、宿院さん」
「こちらこそ」
それからしばらくは、引っ切り無しに来る来賓の対応に追われることになる。