一般人令嬢は御曹司の婚約者
すぐ隣にあなたが
慣れないパーティーに疲れて、化粧室に行くと言って会場を出た。

「はぁー……」

歩きながら頬に手を当て、むにむにと揉む。
顔が引きつってる感じがする。
金持ちのパーティーって楽しいものじゃないわ。
挨拶ばかりでろくに食べられもしない。
そうでなくても、変に力が入って体のあちこちが痛いし。
小さく肩を回していると、ちょうどエレベーターの前に来た。
せっかくだし、探検してみよう。

私は上のボタンを押し、エレベーターに乗り込んだ。

最上階は、緑が広がっていた。
流行の屋上庭園らしい。
淡い光で照らされたそこは、昼間には見せない顔がある。

石畳の道に沿って歩いていくと、やがて緑はなくなり、代わりに一面の夜景を見下ろせた。

「わぁ……」

ビルの明りに車のライト。
光って瞬いて動いて、それはまるで地上の星。
あまりの絶景に、思わず声があがる。
疲れなんて、忘れてしまう。

しばらくそれを眺めて涼んでいると、足音が近づいてきた。
他のパーティー参加者かな。
マスターに恥をかかせないように振る舞わなきゃ。

優雅に見られるように振り返ると、そこには執事服を身にまとった見知った顔。

「…………っ」

「見つけた………」

駆け寄ってきた彼に正面から抱きしめられた。
嬉しさに心が震える。
体に伝わってくるぬくもりが、夢ではないと告げてくる。
え、どうして、なんで。
そんな言葉ばかりがぐるぐるしている。

「あん時は悪かった」

腕の強さをそのままに、御曹司は吐き出すように言う。

「お前にも、理由があったよな。何も聞かずに酷いこと言ってごめん!」

私は耳を疑った。
嘘をついていて攻められるいわれはあれど、謝られる理由がない。

「どうして、怒るのは当然のことでしょう」

置いていかれたときのショックを思い出さないよう、冷静に言葉を発する。
御曹司は体を離し、腕を掴んだまま私と正面から向き合う。

「俺はお前が好きだと言った。好きな奴を全面的に信用できなかった、他の奴の言葉を鵜呑みにしてお前を攻めたことが、俺は許せないんだ!」

御曹司の目は真剣だ。
そしてなおも言い募る。
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