一般人令嬢は御曹司の婚約者
「婚約者候補だからといって、タダで飯が食えると思うなよ」

メイド服、たす、タダ飯お断り、イコール、働かざる者食うべからず。
方程式が出来上がった。
ふっ、ちょろいな。
働けばご飯にありつける、雨風を凌げる場所に住める。
とてもいい条件ではないか。
家賃を気にしなくていい住み込み、嗚呼なんて素敵な響き。
従業員募集の張り紙を見つけたら応募しよう。

膝丈のメイド服に着替え、余った袖を折る。
御曹司の前に出ると、じっと見られ、鼻で笑われた。

「そっちの方が良いんじゃねぇの? さっきよりはお似合いだ」

「……おほめいただき光栄ですわぁー」

怒ってはいけない、落ち着こう。
これは新しいアルバイト、今のは雇い主との顔合わせに衣装あわせ。
雇い主は大変失礼な御仁である。
よし、いける。

「早速わたくしは何をすればよろしいんですの?」

ウフフと営業スマイルを貼り付け尋ねる。
御曹司が手を叩くと、メイド服を着た白髪のおばあさんが現れた。
妙に貫禄があり、気の強そうな方だ。

「連れていけ」

「かしこまりました」

命令する御曹司に、恭しくお辞儀するおばあさん。
私はご老体とは思えない力に引きずられ、ボロ小屋をあとにした。
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