一般人令嬢は御曹司の婚約者
「ここが使用人のための食堂です」

そう、紹介されたところは、一般人からみても、食堂だった。
メイドや執事が自由に座り、話に花を咲かせている。
ここにきて、おかしくなっていた感覚を取り戻した気がする。
与えられた部屋といい、掃除した廊下といい、極端なものばかり見ていたから。
普通とは、なんてすばらしいことでしょう。
ごく普通の幸せをかみしめていると、ミスズさんに呼ばれた。

「ついてきなさい」

「はい」

あわててミスズさんを追う。

「まず、このトレイを持ってそこのカウンターに行きます。そしたら、ご飯を乗せてもらえるから、空いてる席で食べない。食べ終わったら、返却カウンターが向こうにあるから、そこに返します。次の仕事は厨房のお皿洗いですから、そこにいるシェフに声をかけてください」

「はい」

「では、私はこれで」

「はい、有り難うございます」

ミスズさんはさすがメイド長というべきか。
年を感じさせないほどきびきびと動いている。

それだけ忙しいってことかな。
さっ、私も早く食べて仕事仕事。

教えていただいたように、トレイを持ってカウンターに行く。

「失礼します」

声をかけると、シェフの格好をした若い男性がトレイに皿を載せてくれた。

「有り難う」

相手の顔を見て、微笑む。
そして、空いている席についた。
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