一般人令嬢は御曹司の婚約者
「おい」

「なん…きゃんっ!」

御曹司がどこからか持ち出してきたアヒルさんの口がお湯を吹き、メイド服をぬらした。

「ざまあ………ぅおうっ!」

お返しにシャワーのお湯を顔面に集中攻撃。

「げほっごほっ……、きたねぇぞ」

「あら、この透明なお湯のどこが汚いとおっしゃるのかしらワン」

「そういう意味じゃねぇっ、ぺっ!」

そして始まる、お湯掛け合いの時間。
私たちは縦横無尽に走り回った。

なんやかんやで風呂上り。
御曹司はお決まりポーズでコーヒー牛乳をあおる。
その間に御曹司の脱ぎ散らかした服を、隣の部屋の洗濯機に放り込んだ。
制服は綺麗にたたんで、別に置く。
一度着ただけでクリーニングなんて、貧乏人をあざ笑うかのようだわ。
私なんか、ノットクリーニング、イエス手洗いオンリーなのに。
あれ、文法がおかしい…? ってのは、今は関係のない話で。

「これ、どうしよう……」

ずぶぬれのメイド服を指でつまむ。
御曹司のアヒルさんは健闘した。
おかげで、ぬれねずみのわびしいメイドになっている。

以前水をかけられたときは絞れるほど濡れていなかったので、小屋まで戻った。
が、今回は滴っている。
このままでいたら、小屋まで水溜りが線を描くことは確実。
常備されているバスタオルを拝借しても間に合わない。
さて。

「どうしたんだ?」

「ひぃっ!」

声がしたほうを振り返ると、御曹司が壁からひょっこりと顔を覗かせている。

「お、おどかさないでください。ここはあなたみたいな人が立ち入るところではないですワン」

洗濯は下っ端メイドの仕事だから。

「あーあーこんなびしょびしょになっちゃって。だから脱げって言っただろ」
< 34 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop