一般人令嬢は御曹司の婚約者
「ちょっと聞いてるの!?」

「……ぁ、はい、聞いてますよ」

ここで聞いてませんでしたなんて言ったら、火に油を注いでしまう。

「じゃあ、早く婚約者候補を辞退なさい!」

よかった、話あんまりずれてない。
私は慎重に言葉を選ぶ。

「……それは、わたくしひとりの判断では致しかねますわ」

「落ちぶれた祝前の癖に、あたしたちに逆らうの?」

いやいや、そんな気は毛頭ありませんとも。
一般庶民な私は長いものに巻かれます。
ただ、こういう問題は上を通してもらいませんと。
なんて正論、今の彼女たちには通用しない。

「いい? これが最後の忠告よ。草薙様の婚約者候補を辞退しなさい!」

「ですから、そういうことは祝前当主におっしゃってください」

「そう、それがあんたの答えなの。いいわ………あんたたち、やっちゃって!」

中心の女生徒が命じると、後ろの背の低い木ががさがさ揺れる。

「いまさら泣いて謝っても、許してあげないんだから」

あー、今割とピンチかも。
こういう時、飛び出してくるのは屈強な男たちと相場が決まっている。
いつでも逃げ出せるように準備しておくと、現れたのはモズクだった。
間違えた。
ぼさぼさの長髪に瓶底メガネの彼女。
私が今一番避けたい相手。

「もう授業は始まっているが、ここで何をしている」

「……天花寺さん………」

避けたい相手だけど、今回は助かったと安堵した。

「な、何しようが勝手でしょ。あんたに関係ないわ」

「関係ない、ね……」

「何よ……」

ゆっくりと歩み寄ってくる天花寺さんに怯んだ女生徒たちが及び腰になる。
気持ちはわかるよ。
だって、なんかオーラが怖いもん。
初めて声を聞いたけど、絶対零度に近いものを感じた。
でも、この中に勇者がひとり居た。

「みんな、このボサボサ頭もやっちゃって!」

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