一般人令嬢は御曹司の婚約者
「……嫌そうだな」

「いえ、そんなことは………。でも、ハンカチ……」

座ってから言うのもアレだけど、気になる。

「気にするな。女性には優しくしなければならない」

あなたも女性でしょう、と口から出かけたが飲み込んだ。

「まずは初めまして。花園女学院高等科1年、天花寺麗だ」

初めまして、って、どういうこと。
それについては言及せず、無難に名乗る。

「……祝前麻里奈です。さっきは助けていただいて、ありがとうございました」

「礼を言われるほどのことではない、私は当然のことをしただけだからな」

さして気にした風もなく流す彼女。
あの人、うめき声上げてましたよね。
結構手ひどい目にあわせたんじゃ………。
そんな強そうには見えないんだけど、人は見かけによらないな。
横目で窺うと、ばちっと目が合った。
髪とメガネで隠れてたけど、そんな気がした。

「引き止めてすまなかった。だが、今を逃したら次はいつになるか分からなかったから、大目に見て欲しい」

「はぁ……」

「私が花園に入ったのは、祝前麻里奈が休学してからなんだ」

そうなの?
じゃあ天花寺さんは、私が祝前麻里奈じゃないと気付いて追いかけて来たわけじゃないんだ。
ってことは、別人だと言いふらされることも無く、恐れていたことは起こらない。
……よかった。

「………今、ほっとした顔をしたな」

「えっ、そんなこと……」

その邪魔な前髪で周り見えてるの!?
ちょっと焦る。
天花寺さんの不思議度が上がっていく。

「それで、わたくしのことを心配してくださったのですか?」

変なことを訊かれる前に、こちらから質問をぶつけた。

「わたくしとお話したかったのですよね、もしかして、お友達になりたいんですの?」

「友達、か……。それもいいが、私にはやるべきことがあってな」
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