一般人令嬢は御曹司の婚約者
この光景を見られたからには、またお叱りを受けるんだろうな。
でも、引くわけにはいかない。
人目を気にして拘束を解くが、少々説教させていただく。
彼の頬にビンタしたい気分だったが、目立ちすぎるので脛を小さい動きで蹴った。
これも、愛のムチである。
「どちらにしろ、最低ね。頭を冷やして、もう一度考え直しなさい」
私は、それだけ言って小屋に帰る。
メイド服に着替えて、再び外に出るころには人は散っていた。
さて、どんな噂が広がることやら。
憂鬱な一日が始まる。
廊下掃除の業務にいそしみながら、頭に浮かぶのは御曹司のことばかり。
まったく、仕事にならない。
「………はぁー」
心を乱しやがりましてあの御曹司めが。
ほうきを杖に凭れていると、後ろから声がかかった。
「麻里奈さん」
「はいっ」
慌てて振り返れば、見えたのは仕立てのいいスーツ。
徐々に視線をあげて顔を確認する。
「久しぶりだね」
オールバックの髪型に、ダンディーな男くさい整った顔立ち。
私は頭を下げ、礼を尽くす。
「ご無沙汰しております、旦那様」
草薙家当主、草薙雄一がそこにいた。
どうしてここに、今は外出中のはずでは。
そんな疑問もすぐに解ける。
「息子が使用人達にとんだ無礼を働いたらしくてね。急いで戻ってきたんだ」
「それは……」
「学校まで行って、息子と話をしてきたよ。麻里奈さんが息子に無碍に扱われたことも聞いた」
「………申し訳ありません」
「攻めているわけじゃないんだ。顔を上げてくれ」
「しかし……」
「それとも、私の顔を見たくはないのかな?」
「めっそうもございません!」
私はすぐに上体を起こす。
胸の前に持っているほうきの存在に気付いて、それを背中に隠す。
草薙雄一は苦笑して、廊下の先を親指で指す。
「話があるんだ。少し時間をいただけないか?」
「勿論でございます」
主人の命令より優先すべきものは何もない。
私はおとなしく、草薙雄一の後についていく。
途中すれ違ったミスズさんに、ほうきを預けた。
でも、引くわけにはいかない。
人目を気にして拘束を解くが、少々説教させていただく。
彼の頬にビンタしたい気分だったが、目立ちすぎるので脛を小さい動きで蹴った。
これも、愛のムチである。
「どちらにしろ、最低ね。頭を冷やして、もう一度考え直しなさい」
私は、それだけ言って小屋に帰る。
メイド服に着替えて、再び外に出るころには人は散っていた。
さて、どんな噂が広がることやら。
憂鬱な一日が始まる。
廊下掃除の業務にいそしみながら、頭に浮かぶのは御曹司のことばかり。
まったく、仕事にならない。
「………はぁー」
心を乱しやがりましてあの御曹司めが。
ほうきを杖に凭れていると、後ろから声がかかった。
「麻里奈さん」
「はいっ」
慌てて振り返れば、見えたのは仕立てのいいスーツ。
徐々に視線をあげて顔を確認する。
「久しぶりだね」
オールバックの髪型に、ダンディーな男くさい整った顔立ち。
私は頭を下げ、礼を尽くす。
「ご無沙汰しております、旦那様」
草薙家当主、草薙雄一がそこにいた。
どうしてここに、今は外出中のはずでは。
そんな疑問もすぐに解ける。
「息子が使用人達にとんだ無礼を働いたらしくてね。急いで戻ってきたんだ」
「それは……」
「学校まで行って、息子と話をしてきたよ。麻里奈さんが息子に無碍に扱われたことも聞いた」
「………申し訳ありません」
「攻めているわけじゃないんだ。顔を上げてくれ」
「しかし……」
「それとも、私の顔を見たくはないのかな?」
「めっそうもございません!」
私はすぐに上体を起こす。
胸の前に持っているほうきの存在に気付いて、それを背中に隠す。
草薙雄一は苦笑して、廊下の先を親指で指す。
「話があるんだ。少し時間をいただけないか?」
「勿論でございます」
主人の命令より優先すべきものは何もない。
私はおとなしく、草薙雄一の後についていく。
途中すれ違ったミスズさんに、ほうきを預けた。