一般人令嬢は御曹司の婚約者
おとなしく待てをしている私は、ひたすら彼の背中を見ているという無益な時間を過ごしていた。
それをただ眺めるだけでなく、メインとして優雅にティータイムを過ごせたなら、どんなに幸せなことだろう。
あー、マスターのコーヒーが飲みたい。
なんて、叶わぬ夢に思いを馳せながら。
そんなことをしている間に、考えた末に答えを見つけ出したらしい御曹司。
それはもう、キラキラした笑顔をなさいました。
ほんと、ようやくかと思う。
だが同時にそれは、さながら戦場を生き抜いた戦士のようで。
………つまりは、痛々しかったということ。
キラキラした中に、達成感だけではない、なにか禍々しいものが混ざっていた。
「ふっ、ふはっ、ふはははは!」
「…………」
……まぁ、なにはともあれここまでよくやった。
褒めてやらん事もない。
立ちっぱなしで行使した脚をようやく休められる。
片足を交互にぷらぷらさせて耐えていたが、限界だ。
「さて、風呂に行くぞ」
御曹司は着替えを準備して部屋を出る。
私は黙ってその後をついていった。
そして到着した大浴場。
一糸纏わない御曹司の目の前のそれは、湯気も何もなくシンとしていた。
「……ど、どういうことだ!」
振り返り、くわっと牙をむく御曹司。
「どういうことといわれましても、こちらとしては何をそんなに驚かれているのか、皆目見当もつきませんわ」
いやほんとまったく。
「嘘つけ、そして俺を見ろ!」
「そんなに見て欲しいのでしたら、そのお粗末なものを隠しなさい」
何のために顔を背けてると思ってるのよ。
っていうか、なんで、需要のない御曹司の露出を見る機会が多いの。
「俺のサービス精神を無駄にするのか、俺の裸を見るこんな機会もうないぜ」
「いままで散々自分から機会を作ってきましたでしょう、露出狂が。わたくしとしましては、ないほうが幸せですわ。セクハラ雇い主」
「贅沢な奴」
「……自分で言ってて恥ずかしくないの?」
心底呆れたという表情が隠せない。
どんだけご自分の肉体に自信があるのかしら。
井の中の蛙大海を知らず。
ボンボンは外に出るべきだと思います。
常識というものを学びなおしてきなさい。