一般人令嬢は御曹司の婚約者
あーでもない、こーでもない。
なにも考え付かないうちに、目的の場所に着いたのか、エンジン音と揺れが止んだ。

「降りろ」

またしても命令され、引きずられる。
檻のような美しい造りの門を越え、長方形の石が敷き詰められた道を行く。
先ほどのは立派な日本家屋だったが、ここは立派なお屋敷だ。

短時間に対極的なものを見ると、観光をしている気分になってくる。
実際は、観光なんて生易しいものではない。

「邪魔するぜ」

私を引きずっていた黒ずくめの男が豪奢な扉を開けると、そこはお城だった。
和風ではなく、洋風の。
中央にはダンディなおじさま、その隣に立派なひげをもつ執事。
彼らの背後におおきな階段。

「まちくたびれたよ」

おじさまは口を開くと、にやりと笑みを浮かべた。

「それが頼んでいたものかい?」

「ああ。年齢的に丁度いいだろ?」

「確かに、申し分ない」

おじさまは執事に目配せし、それまで黙っていた執事が動く。
片手に持っていたアタッシュケースをこちらに見せるように広げる。
中身はいっぱいに詰められた諭吉。
……めまいがした。

「これでいいだろうか」

「確かに受け取った」

アタッシュケースが黒ずくめの男の手に渡り、私は解放された。
黒ずくめの男が屋敷を出るのを見送り、この場に残るのはおじさまと執事、私のみ。
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