一般人令嬢は御曹司の婚約者
自然の光が部屋に差し込み、人工のそれとは比べ物にならない破壊力に目を覚ました。
ベッドにうつぶせていた上半身を起こし、御曹司を確認する。
温くなったタオルをこれまた温くなった水桶にいれ、彼の額に手を当てる。
それは人間の体温らしいものになっていた。
寝たら下がったようだ。
病院に行く必要はなさそうだが、使用人や当主に報告くらいはしておこう。
それに、この状態では、ひとり暮らし続行は不可能だろう。
まずは学校に休みの連絡を入れてー。
これからしなければならないことを考えながら、そっと部屋を出た。
いつ起きてもいいように、水とゼリーを御曹司の部屋に運ぶ。
扉を開けると御曹司はベッドから起き上がろうとしていて。
こいつ……。
すたすた。
早足で御曹司に近付き。
「病人はおとなしく寝てろ」
「うげっ!」
彼の顔面に手をかけて、枕に後頭部を叩きつけた。
腹まで落ちている掛け布団を首まで引き上げようとして、気付く。
「やっぱり起きてください、汗をかいたでしょうから着替えをお願いします」
かけようとした布団を取り去り、クローゼットへ。
そこから着替えを取り、御曹司に差し出す。
「ご自分で着替えられますよね」
「熱はもう下がった、学校に行く」
「寝言は寝て言え、病み上がりが。学校に欠席の連絡はしておきました。今日は大事をとって寝ていてください」
「嫌だ、俺はひとりで…」
「こんなときに何を言ってるの、中止に決まってるでしょう」
「嫌だ、俺はやれるもん」
「聞き分けのないことを言いなさんな。こじらせて肺炎にでもなったら、それこそ迷惑」
こうなったら実力行使だ。
私はわがまま御曹司の上に馬乗りになり、シャツのボタンを外していく。
「やめろー! っゲホゲホ……ッ」
「言わんこっちゃない」
追い剥ぎよろしく服を奪い取り、持ってきたパジャマに着せ替える。
うん、かわいい。
「……おい、これは仕返しか」
「ご想像にお任せしますわ」
御曹司の頭にはキュートな猫フード。
私の犬とおそろいだ。