一般人令嬢は御曹司の婚約者
「いーやー!」

私の抵抗など些細なことと言いたげに、彼女たちは手際よく私をころがす。
服を脱がされたかと思えば、着せられ。
それが終われば、椅子に縛り付けられ顔に何かしらを塗りたくられる。
髪も何かしら弄られた。

「うしっ、完璧」

少し離れたところからまじまじと眺められ、居心地が悪い。
そうでなくても最悪な気分だというのに。
鏡がないから私の顔に何が起きてるかわからない。
横で補佐をしていた他ふたりも正面にまわり。

「さすがね」

「これなら隆雄様もお喜びになりますね」

絶賛した。
それほど御曹司の喜ぶおかしな顔になったのか。
もう私、お嫁にいけない。

「時間がないわ、すぐに隆雄様のもとに」

「はいっ!」

体の拘束が解かれ、すかさず手首を掴まれる。
そして、廊下を全力疾走。
私はされるがままに引きずられた。
抵抗する気力なんて、根こそぎ奪われていたからだ。
女って怖い。

「遅い!」

「申し訳ありません隆雄様」

連れて来られたのは、御曹司のところ。
彼は、私を上から下まで品定めするように眺める。

「………」

足にきて、御曹司の顔が険しくなった。

「おい」

「忘れ物ですっ」

後ろから、私を拉致したメイドのひとりが走ってくる。
その手にはガラスの靴。

童話か!

メイドは私の前にガラスの靴を並べ、他ふたりのメイドと協力して私の靴をそれと換える。

ぴったりだった。

「よし」

御曹司の許しが出ると、メイド3人は撤退した。
なんという連係プレイ。

感心していると、いきなり手を握られた。
ビックリしてみると、相手は御曹司で。

「行くぞ」

「どこに」

答えのないまま、御曹司は目の前の扉を開けた。
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